1.Drug-likeライブラリーによる細胞内タフターゲットを狙う中分子創薬
中外製薬株式会社
小嶋 哲郎
要旨
低分子化合物、抗体は医薬品として大きな成功を収めているが、それぞれ標的タンパク質にポケットが存在すること、細胞外に存在することが必要であり、細胞内タンパク質表面に結合しタンパク質間相互作用(PPI)を阻害することは容易ではなかった。Nature(doi: 10.1038/nature06526)の情報を参考にPPI阻害には抗体ほどの分子サイズは必要なく分子量1000程度の中分子で可能であると考えた。経口剤は分子量500までが望ましいとするrule of 5は広く受け入れられているが、我々は膜透過性を示す天然物シクロスポリンに着目し、経口薬として重要な膜透過性、代謝安定性を有し得る中分子ペプチドのcriteriaを明らかにした。
従来のペプチド創薬ではタンパク性の20種アミノ酸からなるペプチドのライブラリーから活性ペプチドを得た後、膜透過性、代謝安定性を付与するための変換の過程で主鎖構造変化を来し活性を減じてしまうという困難な過程を強いられてきた。そこで我々は薬らしい性質のcriteriaを満たす中分子ペプチドのライブラリーを構築し、これより活性中分子を取得し、大きな構造変化を伴わない構造最適化により医薬候補品を創製する戦略を立案した。
蛋白質表面上でのPPI阻害では疎水的な相互作用が支配的となり、ヒット化合物を得るためにはライブラリーには極めて高い構造多様性が求められると考えられる。大規模なライブラリーを容易にスクリーニング(パニング)出来るmRNAディスプレイライブラリーに着目した。大腸菌の翻訳因子の改変によって膜透過性と代謝安定性を両立させるためのcriteriaの一つであるN-アルキルアミノ酸を6つ以上含むペプチドの効率的な試験管内翻訳系を開発した。この翻訳系を用いてN-アルキルアミノ酸を多数含む環状ペプチドの大規模なスクリーニングを可能とするmRNA displayライブラリーの構築に成功した。
K-Rasを標的としたパニングにて、活性化因子SOSとの相互作用を阻害する7つのN-メチルアミノ酸を含むペプチドを得た。高膜透過性の主鎖構造の特定を含む構造最適化の全般は、設定したcriteriaに従う形で進められた。疎水性相互作用の最適化のみで医薬抗体並みの高親和性(KD = 35 pM)を達成しxenograft modelマウスへの経口投与にて高い抗腫瘍効果を認めたことから我々のペプチドライブラリーを用いた創薬コンセプトの実効性を示すことが出来たと考える。本中分子創薬技術を適用し既に8つ以上の標的に対してin vivoにて薬効を示す中分子を得ている。
- 1987年
- 大阪大学大学院工学研究科醗酵工学修士課程修了、中外製薬入社
- 1997年
- 東京大学医科学研究所造血因子探索研究部門客員研究員(~2000年)
- 2001年
- 大阪大学薬学博士号取得
- 2023年~現在
- 中外製薬シニアフェロー
【受賞歴】
- 2024年度
- 日本薬学会医薬化学部会賞