ファシリテーター

近藤  滋 (武田薬品工業株式会社)
高橋  裕 (東京大学)
出口 清香(東京科学大学)

参加者

20名

概要

高次インビトロ評価系は、近年、前臨床試験や基礎研究において大きな注目を集めている。iPS細胞、オルガノイド、生体模倣システム(MPS)などの技術を活用することで、ヒト疾患や薬剤作用を精密に再現でき、創薬研究の効率化および成功率の向上に寄与している。特に、オルガノイドやMPSは、従来モデルを超える高い機能性と解像度を備えており、臓器機能や疾患病態の再現に対する期待が高まっている。
今回のワークショップでは、以下2つの話題提供を行った後、事前に指定した6~7名程度の3グループ×2ラウンドのディスカッションを実施し、活発な意見交換が行われた。

【話題提供1】東京大学 高橋 裕

ヒト小腸オルガノイド、肝臓オルガノイドに関する、培養のコストダウンや単層化の技術、および従来の細胞モデルでは評価困難な生理機能が評価可能となるいくつかの具体例を紹介した。さらに、オルガノイドを活用したスクリーニングの事例を2つ紹介した。

【話題提供2】東京科学大学 出口 清香

ヒトES/iPS細胞や生体模倣システム(MPS)などの高次インビトロ評価系を用いた腸管モデルの開発と、それらを活用した化合物スクリーニングについて話題提供を行った。特に、汎用される細胞株では評価が困難であった、多様な腸管構成細胞の相互作用や、腸管粘膜の多層構造を高次インビトロ評価系により再現した事例について紹介した。

【グループディスカッション(A)】
  • 2Dでは確認できないが、3Dでのみ再現されるフェノタイプの存在は、オルガノイドやMPSの必要性を強く示している。
  • 疾患モデルの精度向上には、オルガノイドへの血管系の導入(肝臓)や共培養(心臓)が不可欠であり、臓器間相互作用や薬物動態の再現性が大きく向上する。
  • 一方で、バッチ間差の解消が大きな課題であり、凍結保存方法の標準化や自動化による人依存技術の脱却が求められるが、現状では容易ではない。
  • 発現レベルを確認して使用する等のQCプロセスが必須であり、特にiPS細胞は継代により性質が変化するため、分化誘導プロトコールの厳密な管理が必要である。しかし、現状ではラボごとに公開プロトコールをアレンジして運用しており、標準化には至っていない。
  • ライセンスの制約や開発コストの高さが、確立した技術や製品を安価に提供できない要因となっている。
【グループディスカッション(B)】
  • 話題提供で紹介した研究内容に関する質問の他、オルガノイドを用いたアッセイの再現性、スクリーニングの中における活用方法、遺伝子導入方法、現在のMPSの課題など、様々な議題が上がった。
  • オルガノイドの凍結保存は通常、ゲルから回収後に破砕して行うため、細胞株のように解凍後の細胞をそのままスクリーニングアッセイで用いることは想定しにくいが、オルガノイドの状態で凍結された製品も販売されていることから、今後は株化細胞のように凍結保存ストックをそのまま播種することでバッチ間の差異を低減する工夫ができる余地があるという話は印象的であった。
  • オルガノイドが産業界で広がっていない理由としては、コストやそれに打ち勝つメリットを提示できないといったことに加えて、関連技術が特許で制限されている問題、オルガノイドの培地や手法が標準化までには至っていない問題が挙げられた。
  • MPSを扱ったことのある研究員からは、細胞、臓器間の相互作用を評価する上で、共通の培地が見つからず苦労したという経験談が語られた。
【グループディスカッション(C)】
  • バッチ間差を最小限に抑えるための取り組みや、既存のインビトロモデルと比較した高次インビトロ評価系の利点について議論が行われた。
  • ヒトiPS細胞由来の分化誘導細胞や、オルガノイド等の三次元モデルは、バッチ間差が大きいことがスクリーニングにおける課題の一つである。この点については、使用する培養試薬のロットを統一化することや、分化誘導の最終段階での凍結ストック作製、自動培養装置の活用による作業の標準化等の複数の対策が挙げられた。
  • 既存のインビトロモデルと比較した際の高次インビトロ評価系の位置づけを整理することで、スクリーニングにおいてこれらを活用する意義の明確化が図られた。
  • 生検の取得が困難な組織ではヒトiPS細胞由来分化誘導細胞が貴重な細胞ソースとなることや、MPSを用いることで血管新生などの従来のモデルでは再現できない現象を再構築できることなどが、高次インビトロ評価系の利点として挙げられた。
  • 標的ベーススクリーニングよりも表現型スクリーニングにおいて、高次インビトロ評価系の必要性が高まるとの指摘もあった。