ファシリテーター
三井 郁雄(第一三共株式会社)
片倉 晋一(バイオ産業情報化コンソーシアム)
池田 和由(理化学研究所計算科学研究センター)
岡部 隆義 (東京大学創薬機構)
参加者
31名
概要
1. 開催趣旨
本ワークショップ(WS)は、AI創薬をテーマとして、
- 最新のAI技術動向のアップデート、
- 実際の創薬現場への適用方法、
- 課題や活用の方向性についての議論
を行うことを目的とし、チュートリアル受講者程度の知識を前提に実施された。
参加者はAI創薬に関心を持つ多様なバックグラウンドの人材で構成され、グループA 15名/B 8名/C 8名で討論が行われた。
2. 話題提供
最初に3名の専門家より、各領域の最新動向に関する話題提供が行われた。
(1)AI創薬の潮流 池田 和由(理化学研究所 計算科学研究センター)
- AI創薬の全体動向
- モデリング技術、シミュレーション技術の進化
- HTSデータ・アッセイデータの利用高度化
(2)分子構造生成器の最近の話題から 井上 貴央(株式会社Elix)
- 生成モデル (特に深層学習ベース) に関する復習
- 目的特化型の構造生成に関する新手法の紹介
(3)複合体構造予測技術の進展とその応用 富田 篤弘(Preferred Networks)
- AlphaFold/Boltz等の影響を受けた複合体予測の革新
- タンパク質–低分子相互作用予測の新手法
- 創薬における立体構造情報の活用可能性
3. グループ討議
参加者は3グループに分かれ、話題提供を踏まえた議論と概論の整理を実施。
グループA:既存スクリーニングデータのAIへの利用
担当:池田、三井
主な議論内容:
既存のスクリーニングデータを活用して活性予測を行った結果、予測精度があまり良くなかった施設と、非常に良い結果が得られた施設が存在した。結果の差異は、データの質や量、標的の種類、予測手法など、さまざまな条件に起因すると考えられる。今後は、精度の高い予測を可能にする条件を明らかにすることが重要である。
グループB:分子構造生成器を利用した創薬
担当:井上、片倉
主な議論内容:
- 参加者がAIに関して初心者が多かったことから、深層学習の原理から生成AIのしくみまで、講師によりわかりやすい説明が行われた。
- 生成AIの基礎を理解したうえで、創薬研究の現場で利用する際の疑問に対して講師との議論をおこない、ポイントを明確にした。
グループC:複合体構造予測技術を利用した創薬
担当:富田、岡部
主な議論内容:
- Boltz-2の「affinity値」は、予測構造を直接使ったドッキングスコアのような評価を行うのではなく、タンパク質のアミノ酸配列やリガンドの特徴量に相互作用情報を混ぜて (フィンガープリントのように用いて) 結合スコアを反映している。
- affinityモデルの妥当性は、高・中・低親和性を正しく予測できるかの他に、decoy を正しく識別できるかで評価されるべきである。現状decoyに対する判別性能が高くなく、結合しない化合物ータンパク質ペアに対して一定のアフィニティを予測することがある。
- 精度向上には、学習データに含まれていない化合物にも対応できるような仕組みが重要。例えばキナーゼでは ATPサイト結合データに偏っているため、アロステリックリガンドまで ATP サイトに結合するよう誤予測されやすい。結合部位の条件付の他に、fine-tuning などで対応することが効果的。
- フェノタイプヒットの標的探索において、ヒット化合物に結合するタンパク質を逆探索するケースで複合体構造予測を活用することは困難。上記のデコイのケースと類似しており、結合しないタンパク質ー化合物の間に一定のアフィニティを予測してしまうことが原因の一つであると考えられる。
- 上記のような逆探索のタスクにおいては、現状では複合体構造予測よりも LLM ベースのアプローチで論文データやオミクスデータなどを統合したマルチモーダルなアプローチの方が実現性が高そうにみえる。
4. グループ発表
各グループが討議内容を全体に共有し、
- AI活用における共通課題
- 現場での導入プロセス
- 必要なデータ・技術・人材
などについて全体で認識を深めた。
参加者からは、AI技術が実際の創薬業務に融合するための「現場目線のポイント」が多数挙がり、今後の導入検討に資する知見が共有された。
5. まとめ
本WSでは、
- AI創薬に関する最新知識のアップデート
- 生成モデル・構造予測・スクリーニングデータ活用という3つの視点からの実務的議論
- 現場でのAI活用の課題と方向性の抽出
が行われ、参加者の理解深化とネットワーク形成に寄与した。
