金森 敏幸先生
産業技術総合研究所細胞分子工学研究部門ステムセルバイオテクノロジー研究グループ
上席主任研究員
要旨
新薬開発に要するコストの高騰、上市までの期間の長期化は、10年以上前から世界中で指摘されているが、昨今ではさらに、いわゆるニューモダリティやCovid-19などの新規感染症への対応などが加わり、製薬業界には喫緊に解決すべき課題が山積している。
創薬研究を促進する革新的な支援技術は、これらの問題を解決する一助になると考えられるが、その中でも近年、MPS (Microphysiological System)に世界中の注目が集まっている。MPSとは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製された微小な空間においてヒト細胞を精密に制御して培養することにより、従来期待できなかったin vivo機能を誘導する技術体系である(石田・金森:日本薬理学雑誌, 154, 345 (2019))。
米国では National Center for Advancing Translational Sciencesが司令塔となって、MPSの研究開発に関する大型プロジェクトを2012年から5年間実施した。欧州でもEuropean Research CouncilがMPSに関する研究開発プロジェクトを実施している。これらの成果として、欧米では既に20を超えるMPS製品が世に出ている。また、これらのプロジェクトでは規制当局を巻き込んで、規制へのMPSの掲載を目指している。我が国でも、遅ればせながら2017年に日本医療研究開発機構によってMPSに関するプロジェクトが開始され、国を挙げて欧米へのキャッチアップをはかっているところである。
本講演では、国内外でのMPSの研究開発状況を俯瞰するとともに、実用化に当たっての技術的要点を概説する。
略歴
1983年早稲田大学理工学部応用化学科卒,1985年同大学院理工学研究科応用化学専攻修士課程修了.1985年~1990年三菱レイヨン(株)豊橋事業所勤務.1990年~1995年早稲田大学理工学総合研究センター客員研究員.1994年博士(工学).1995年~2002年通商産業省工業技術院物質工学工業技術研究所および独立行政法人産業技術総合研究所(改組による)勤務(主任研究官).2002年同物質プロセス研究部門機能集積材料グループ長, 2003年同バイオニクス研究センターバイオナノマテリアルチーム長, 2010年同幹細胞工学研究センター医薬品アッセイデバイスチーム長を経て, 2015年から同創薬基盤研究部門医薬品アッセイデバイス研究グループ長. 2020年から現職.
この間、湘南工科大学工学部, 東京農工大学工学部, 成蹊大学工学部, 東京理科大学理工学部, 筑波大学医学群医学類等で非常勤講師, 芝浦工業大学工学部, 筑波大学ライフイノベーション学位プログラムの連携大学院教授を歴任.
主要研究テーマ
生体内および医療用デバイスにおける移動速度論, 機能性材料を応用した医療用デバイス・システム.
所属学会
化学工学会,日本人工臓器学会,日本生物工学会, 化学とマイクロ・ナノシステム学会, 日本動物実験代替法学会, 日本膜学会,高分子学会,日本透析医学会,日本医工学治療学会,日本バイオマテリアル学会,日本再生医療学会,各会員. 細胞アッセイ研究会代表幹事.