厚生労働省・大臣官房審議官(医薬担当) / 森 和彦
要旨
今年6月7日に厚生労働省が公表した最新の人口動態統計では自然減が44万4千人あまりと過去最大の人口減少を示しています。少子化、高齢化、人口減少がますます進む今の日本で人手不足は既に様々な形で社会問題化しています。医療や介護の現場でも今後ますます高齢者が増える一方、働き手の人手不足が進行するため、医療従事者の働き方改革、関係職種間でのタスクシェア・タスクシフティングを真剣に議論せざるを得なくなっています。
一方、国内外で画期的な新薬や医療機器、再生医療製品が続々と開発され、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の承認審査を受けた後、速やかに日本の国民皆保険制度の下で患者に使用されるようになっています。画期的なC型肝炎治療薬もがん免疫療法薬も速やかに日本全国で治療に用いられるようになっています。しかし、どんなに優れた医薬品でも、個々の患者にあわせた使い方が出来なければその効果を十分に発揮できないばかりか、副作用で患者を苦しめることにもなりかねません。また、新しい作用メカニズムの医薬品は未知の副作用の潜在的リスクがあります。新薬の市販開始後も継続的な調査を行い、未知の副作用を早期に発見し、速やかな対策につなげる事が米国FDA、欧州EMA、日本のPMDA共通の取り組みとなっています。加えて画期的な製品の開発コストは必然的に高くなり、良く効くが極めて高額な医薬品等の登場は医療保険財政ひいては国家予算にもインパクトを与える問題となっています。
患者のニーズ、医療者のニーズ、医療保険制度、企業の開発や製造の現場事情、企業の経営事情といった異なる観点を俯瞰した上でトータルソリューションとして妥当な開発のゴールを考えてみる必要があると最近特に感じています。
以上
略歴
1983年3月東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了後、同年4月旧厚生省入省。
2002年4月国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター審査第二部長、
2004年4月独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)新薬審査第一部長、
2006年8月同審議役(新薬審査担当)、
2008年7月厚生労働省医薬食品局安全対策課長、
2010年7月PMDA安全管理監
2013年7月公益財団法人先端医療振興財団クラスター推進センター統括監
2014年7月医薬食品局審査管理課課長
2015年10月より現職