ファシリテーター

出井 晶子(国立研究開発法人理化学研究所)
今村 理世(東京大学大学院薬学系研究科附属創薬機構)
坂本 潤一(Axcelead Drug Discovery Partners株式会社)

参加者

32名
内訳:製薬企業 18名、大学など研究機関 8名、その他(CROなど)6名

概要

1.募集要項

経験:経験不問・スクリーニングに興味のある方 
(ただし、過去にこのWSへの参加経験のない方を優先)

内容:
・ スクリーニングカスケードの構築方法や考え方について、広く学びたい方
・ タンパク質間相互作用(PPI)のヒット選抜や化合物の絞り込みカスケードに、疑問や不安を感じている方
・ 目的にあったプロファイルを持つ化合物を取得するための「化合物の絞り込み」にこだわりたい方
・ 魅力あるヒット化合物を選抜するためにどのようなアプローチが有効かについて議論したい方

 

2.内容

(1)WSの狙い
本WSでは、議論を通じて自分たちでスクリーニングカスケードを組み立てることにより、研究テーマの方針を踏まえて戦略的にスクリーニングカスケードを立案・構築することの重要性について理解を深めてもらうことを目的としている。今回は、標的分子としてタンパク質間相互作用(PPI)を題材に取り上げ、PPIを標的とする阻害剤探索を対象とする架空プロジェクトを設定した。効果的にPPI阻害剤探索を行うために、どのようなアッセイ系をどの順番で組み合わせるのか、という議論に加えて、どのような化合物ライブラリーをスクリーニングに供するのかといった対象化合物の議論へも拡張した。
また、PPIを標的とする阻害剤探索では、酵素阻害剤などを取得とする場合と比べて、何に考慮すべきかを理解を深めることも目的とした。

(2)事前準備
今回、PPIを対象としたスクリーニングカスケード構築に取り組むことを踏まえて、チュートリアルを開催し、WS参加前に視聴していただくようにした。チュートリアルの講演は、1)スクリーニングカスケード構築のための基礎知識、および2)Protein-Protein Interaction (PPI) スクリーニングに関する解説、に分けて行った。スクリーニングカスケードの構築に対する初心者・初級者向けの説明動画、PPIスクリーニングに対する知識を習得するための説明動画を作成した。いずれの動画も、用語や解説は、「創薬研究のためのスクリーニング学実践テキスト」の内容に従った。
また、チュートリアルの視聴有無にかかわらず、当日の議論を進めやすくなるように、今年も参加者へ事前に資料を送付した。資料は、当日のタイムテーブルや議題の内容・アンケート結果に加えて、チュートリアルで解説したスライドについても一部盛り込み、情報共有を図った。
WS内で、事前のチュートリアルや配布資料の閲覧有無について質問したところ、チュートリアルの視聴は10名程度、資料の確認はほぼ全員が行っていたことがわかった(内容に関するフィードバックはなし)。

(3)参加者の属性
専門分野の内訳は、4割程度がHTS、次いで薬理(約3割)、創薬化学(約2割)、その他(化合物管理など)であった。プロジェクトで関わったランダムスクリーニングの経験については、ランダムスクリーニング未経験の方が3割、1-3回の方が3割、4-10回が2割、10回以上が2割と、HTS経験が少ない参加者が半数以上を占めた。また、PPIプロジェクトへの参画経験については、未経験、1-2回の方がともに4割を占めていた。

(4)当日の流れ
当日は、資料に沿って説明を行った後、スクリーニングカスケードを構築する架空の研究テーマについての詳細と、WSで使用する用語の定義を確認した。
その後の60分間を、スクリーニングカスケードを構築するための議論の時間とした。参加者は7-8人ずつ4グループ(A, B, C, D)に分かれて、「取得したい化合物像に合致するような候補化合物を選抜するために、評価するライブラリーを決めてスクリーニングカスケードを構築する」ことを目的として、議論を進めた。ファシリテーター3名で4グループを分担して、進行のアドバイスなどを行ったが、各グループでHTS経験が豊富な方が自主的にグループ内の議論をリードしてくれて、スムーズに実施できた。各グループで考案したスクリーニングカスケードを、選択肢のタグを用いて模造紙に作成するところまでを、時間内に行った。
次いで、各グループで構築したスクリーニングカスケードについて、グループの代表者から3分間で発表、2分間で質疑応答を行った(発表順 C→A→B→D)。一次の評価系については、TR-FRETとAlpha-assayの2系を並行して実施する(グループB)、2系でパイロットスクリーニング実施後1つに絞ってフルHTSを行う(グループC)、始めからTR-FRETのみでHTSを行う(グループA)、SPRで行う(グループD)と各グループが異なる評価方法となり、PPI阻害剤探索ならではだと感じた。TR-FRETのみを選んだグループは、選択理由としてグループメンバーに経験があったからということであった。1次をSPRで行うことについては、スループットについて質問があり。インシリコで絞って対応することが示された。使用するライブラリーについては、低分子やフラグメント、および中分子ライブラリーを選ぶグループが多かったが、天然物も選んだグループがあり、その理由として、メドケムメンバーが実施可能ということから、出来るだけ多くの化合物を評価してヒットの取得確率を上げるため、との回答であった。各班内にできるだけ専門の異なる人が入るようにグループ分けを考慮した結果、各々専門分野に応じた役割を意識して主体的に議論が出来た様子がうかがえた。発表終了後に、最も理想的だと考えられるスクリーニングカスケードへの投票(1人1票、自グループ以外に挙手)を行ったところ、グループCのスクリーニングカスケードが13票と最多得票であり、2位はグループAの11票であった。
最後のまとめとして、ファシリテーター3名が考えたスクリーニングカスケードを発表した。ファシリテーター3名が作成した案に比べて、それぞれのグループから提示されたスクリーニングカスケードは、発想の自由度が高く、大きな構想で夢のあるスクリーニングカスケードになっており、参加者のレベルが高くなっていることを実感した。

 

3.まとめ

  • HTSから創薬につなげていくためには、どのようなプロファイリングの化合物を取得したいのかをきちんと考えて、戦略的にスクリーニングカスケードを構築する必要があり、化合物の絞り込みにどんなアッセイ系をどんな順序で組み合わせるかが重要であることを共有した。
  • PPI阻害剤探索のスクリーニングカスケードやスクリーニング対象とする化合物ライブラリーは、中分子ライブラリーやPPI focusedライブラリーなどの利用や結合を指標とする評価系を適用することを考慮するといった点において、酵素などを標的とする阻害剤探索とは異なる戦略を想定する人が多いように見受けられた。一方で、各機関でも実施成功例が多くないようで、スタンダードな手法と言えるほどの取り組み方はないように思われた。
  • スクリーニングカスケード構築の中でPPIを選択する事に関しては、初心者には、少しハードルが高いターゲットクラスの設定になることが想定された。しかしながら、自主的に議論をリードできるHTS経験者が増え、初心者に関しても、一緒に議論に参加できているようであった。これらのことから、ファシリテーターの想定より全体としてHTSレベルの底上げがされていると感じることができ、参加者の今後のHTS研究結果に期待が持たれた。

4.各グループが作成したスクリーニングカスケード

  • グループA

     

  • グループB

     
  • グループC

     
  • グループD