長門石 曉 (東京大学)
島田 多堅 (第一三共RDノバーレ株式会社)
中納 広一郎 (大正製薬株式会社)
26名
概要
本ワークショップでは、参加者23名+ファシリテーター3名の計26名で、事前アンケートより、物理化学測定の「基礎」と「事例共有(1)(2)」というテーブルを設定し、3つのグループに分かれて議論を行いました。主な議題を以下にまとめます。
1.事例共有(1)
本テーブルでは個々の検出技術を切り口として、それぞれの特徴・問題点・限界などについての議論を行った。
最も多くの時間を割いたのはSPRであった。特殊なデータの取り扱いとして、検出限界を超えた解離速度や、レスポンス量が理論上の最大値を上回る場合の解釈・対応方法・意義に関する議論を行った。データ処理そのものについても議論の俎上に上がった。二相性の解釈や過剰なレスポンスについての考え方、あるいはそうした結果を非専門家と共有する際の留意点などである。解析における具体的なTIPSも話題に挙がった。特にPROTACにおける三者複合体解析に多くの時間を割いた。サンプルをランニングバッファーに入れ込む例、ABAインジェクションの適用などである。「完成品」には至っていない検体のデグラデーション活性との相関についても参加者の多くが興味・経験・課題を有するところであった。他に細かな議論として、Neutravidinの利用、測定温度、Tris-NTA-Biotinを利用した固定化、サンプル調製のオートメーションなどについて議論を行った。
SPRについで多く話題に挙がったのはMSTである。ダイナミックレンジの大小とS/N比の関係、色素のコンジュゲーション手法の選択、キャピラリの選択、バッファースキャンなどが議論に挙がった。一方で、thermophoresis →TRIC → SpectralShiftと検出原理に移り変わりのある機器なので、最新状況なども話題となった。
手法としてその他に挙がったのはGCI, BLI, TSAである。いずれも解析の手軽さという文脈から話題に挙がった。
2.事例共有(2)
本テーブルでは難易度の高い標的に対する物理化学測定について討議した。
ツール化合物がない場合、天然変性タンパク質を標的としている場合、PPIを評価する場合などが話題にあがった。各難標的に対する物理化学測定に関する悩みとしては、評価系が成立しているのか、データの解釈が正しいのか、クライテリアはどうするべきなのかというところが主な点であった。
評価系が成立しているのかという点は、結果がfalseなのか、評価系と標的の相性なのか、調製したタンパク質の問題なのかというように判断するために考慮するべきポイントの幅が広いことから悩ましい点であるという話になった。また物理化学測定を評価している段階ではテーマが期日に沿って動いているので、別角度からのアプローチによる各化合物に対する詳細な検討を行えないという悩みもあがった。
「仕上がった」化合物ではどのような評価系においても陽性にでることが多い一方でヒット段階のような素性がいまいちな化合物では画一的な方法による打開は難しいということが共通した認識で、複数手法を組み合わせることやSPRにおいては化合物側(特にペプチドなどは合成しやすい)を固定化する方法などが打開策のひとつとして上がった。
その他の機器としてはCarterra、GCI、Refyenなどが興味があるという点で話題にあがった。
3.基礎
本テーブルでは物理化学測定を始めたばかりの方、経験数の少ない方、これから行ってみたい方を中心に、物理化学測定の基本的な考え方、操作性等に関する質問が多く上がった。SPRは第1選択として挙がることが多いが、センサーチップへの固定化に関する苦労や、得られたレスポンスの妥当性を気にする意見が多くあった。SPR以外の選択として、ITC、MST、DSF等を活用した相互作用解析に関する議論では、やはり各々の測定原理に伴う利点と欠点に関する情報交換となり、取り扱う蛋白質の物性、化合物数、どのような指標をまず得たいのか、によって技術の選択は異なることの理解が深まった。