村松 康範(第一三共RDノバーレ株式会社)
勝俣 良祐(エーザイ株式会社)
藤江 昭彦(日本医療研究開発機構)
11名
概要
天然物創薬をテーマとしたワークショップ(以下、WS)は6度目の開催である。昨年度はデジタルトランスフォーメンション(Dx)や最新鋭技術と天然物研究との融合により、現状から脱却しうる研究アイデアを議論したが、本年度はより具体的なアイデアを創出するため、感染症創薬を題材に、これまでとは一線を画す斬新なシーズ創出のためのアプローチついて小グループに分かれ議論した。なお参加者はファシリテーター含め総勢11名であり、その内訳は企業、国、アカデミア等であった。
本WSでは、参加者全員による自己紹介ののち、本会の趣旨説明を行った。自己紹介では、各参加者が天然物に対し、どのような興味をもって本WSに参加したかなどを語った。趣旨説明では、アンケート結果から天然物創薬のボトルネックになっている点を列挙し、グループワークにおける議論のきっかけとした。また、COVID-19に関して、我々が経験した未曽有の危機やこれまで経験したことがないスピード感での創薬実現など、これまでの経緯を振り返るとともに、ネクストパンデミックに備えた仕組みづくり案などを紹介した。次いで、天然物創薬として感染症シーズを充足するために「ライブラリー」および「スクリーニング」の2項目について小グループを作り、テーブルディスカッションを実施した。その後、各テーブルの代表者からそれぞれの議論内容を紹介し、全参加者での総合討論により個々のアイデアについてさらに理解を深めた。発表後に参加者全員が机を囲んでの総合討論は初めての試みだったが、天然物というモダリティをどのように活用するべきか、各参加者の持つ経験・専門性から多角的に意見が飛び交い、有意義な議論となった。以下に各グループでの議論の概要を記載する。
1. チームA(ライブラリー)
既存のライブラリーとは異なる手段で集めることで既存薬とは異なる天然物の発見機会を引き上げる。例えば菌分離の際の培地組成を伝統的なモノから極端に変える(D-GlucoseでなくL-Glucoseを使用するなど)ことで、強い選択圧をかけ、これまで注目してこなかった菌株を収集する。共培養によるcombination libraryも面白いが、マトリックス上にcombinationのパターンが増加するのでいたずらにかけ合わせるのではなく戦略が必要である。また、作製したライブラリーについてアノテーションを付加することで各スクリーニングに供する対象を選択することも議論に挙がった。これまでも毒性や抗菌活性の事前アノテーションなどは実施された例はあるが、ヒト細胞に添加したときのトランスクリプトーム解析など、さらにリッチなデータがあれば、発現変動のクラスタリングやこれまでのライブラリーと異なるパターンを示すサンプルの抽出など、データドリブンのアプローチが取り得る。
2. チームB(スクリーニング)
Phenotypic:これまでと同様の単純な抗菌アッセイだと今までと同じものしか獲れない。新しい薬を見つけるにはユニークな系が必要。例えば、スフェロイドやオルガノイドを活用した感染モデルを構築し、その系でなければ抗菌活性を検出できないものをスクリーニングすることで既知のメカニズムとは異なるシーズが探索できないかなどのアイデアが挙がった。
Target-oriented:菌由来、ウィルス由来の標的で低分子合成化合物ではヒットが得られないことがある。要因の一つとして、ヒト由来のタンパク質との違いがあり、中分子や天然物のライブラリーはそのソリューションとなり得る。
チームBではスクリーニングに留まらずライブラリーや組織についても議論した。ライブラリーについては、日本全国の天然物を集めて統合し相互活用できるようなライブラリーを用意し、日本の強みを最大化したいという意見が挙がった。また、大きな取り組みを実現するには国レベルの創薬の仕組みが必要で、外部ファンドをうまく巻き込んで、これまでは資金面で難があったアプローチを可能にしたい。そのために魅力的な提案を企画する必要がある。