ファシリテーター

村松 康範 (第一三共RDノバーレ株式会社)
勝俣 良祐(エーザイ株式会社)
 

参加者

11名

概要

天然物創薬をテーマとしたワークショップ(以下、WS)は5度目の開催であり、コロナ禍による2年の開催見送りを経て3年ぶりの実施となった。本WSでは天然物創薬におけるイノベーションを導くヒントを得るために、一見関係のない最新鋭技術との融合によりどのような技術革新を生み出すことができるか、小グループに分かれ議論した。なお参加者は総勢11名であり、その内訳は企業、国、アカデミア等であった。

本ワークショップでは、参加者全員による自己紹介の時間ののち、本会の趣旨説明を行った。自己紹介では、各参加者が天然物に対し、どのような興味をもって本WSに参加したかなどを語っていただいた。趣旨説明では、CRISPRや3Dプリンターなど、イノベーションの具体的例を紹介したのちに、アンケート結果から「デジタルトランスフォーメーション(Dx)」、「工学系技術」、「その他の技術」の3点に焦点を当てた。ファシリテーターから各項目について議論のゴールを提示し、それに基づいてテーブルディスカッションを実施した。その後、各テーブルの代表者からそれぞれの議論内容、設定されたゴールへの回答を紹介いただき、参加者全員から最もよかったチームはどこであったかを投票によって決定した。また開票作業中の時間を活用して、アンケートで記載いただいた、日ごろから抱えている課題やコロナ禍における悩みなどを共有し、ざっくばらんに議論した。

 

【各チームの議論のゴールと発表内容について】

チームA(デジタルトランスフォーメーション(Dx)):

議論のゴールDxによって天然物創薬の何を変革するか。そのためにどんなデータ、どんな技術を活用して達成するか。

チームA回答変革のテーマは原点回帰。これまで「単一の活性化合物探索」を行ってきた天然物創薬からDxによって「複数の化合物による協奏的な作用の特定」を可能にする。天然物創薬の原点は伝承医薬であり、古来は特定の疾患を治療するために対応した植物等を摂取し症状の緩和・治癒が行われていた。現代では科学が進み、その有効成分がどの物質なのかがわかるようになってきた。一方で、単一にする過程で活性が消失してしまうものも少なからず存在する。このような現象の中には複数の成分が異なる作用を発揮することによって総合的に疾患への薬理活性を提示していると考えることができる。複数の物質による複数の作用点の解明は困難を極めるためDxによるアプローチによって複合的な作用機序解明ができるようになることを期待する。これが実現すれば、生薬の薬効メカニズムやマイクロバイオームの変化が及ぼす疾患への影響などに応用できると考えた。

 

チームB(工学系技術との融合):

議論のゴール天然物創薬において選択した工学技術を活用することでどのような変革が起きるか、起きる変化の中で最も面白い(興味深い、すごい)点はどこか(できれば実施例がないもの)

チームB回答超小型ドローンとアフィニティービーズを組み合わせ、天然物資源探索を未開の地へ拡張し、同時に親和性の高い物質を回収するシステムを企画した。ドローンで未開の地へ探索範囲を広げるという点はそこまで突飛なアイデアではないが、アフィニティービーズに結合した標的たんぱく質を半透膜で覆ったケースに封じ込め、それを対象エリア内で引きずることで標的たんぱく質と親和性の高い物質を回収していく。これにより環境中から直接有用物質を探索することを可能とする。

 

チームC(その他の技術の利活用):

議論のゴール選択した技術が、天然物創薬のどのような場面で、どのように活用できるか、またどのような点が革新的か(複数可)

チームC回答

1.    天然物本来の標的(抗生物質であれば対象微生物のたんぱく質など)を同定することからスタートし、そこからヒトでの相同性の高いタンパク質に落とし込み、適用していくアプローチ。ロジカルにヒトの標的に迫る点がこれまでと逆転の発想。

2.    天然物の分子進化。天然物(微生物)のミックスに放射線や生物的なものを含む様々な刺激を加えることで複雑な化合物群のプールを作製し、プールのまま評価する。RNAディスプレイやファージディスプレイのように濃縮する手法を構築する必要がある。
 

投票の結果、最優秀賞としてチームAが選定された。