ファシリテーター

竹田 浩之 (愛媛大学 プロテオサイエンスセンター)
長谷川 司 (東京大学 創薬機構)
小祝 孝太郎 (杏林製薬株式会社)
村越 路子 (第一三共RDノバーレ株式会社)
 

参加者

15名
製薬企業     10名
大学など研究機関 5名

概要

募集要項

タンパク質発現やアッセイ系構築をこれから始める方、試験材料として用いるタンパク質について基礎から改めて学んでみようという方、実際にタンパク質を発現・使用していて実験上の悩み、疑問を持たれている方。
タンパク質発現の経験者、実務に携わっておられる方で、タンパク質発現の技術や知識をさらに高めたい方、後進に技術を伝えたいとお考えの方。
 

WSの進行と議論内容

1.事前アンケートの結果報告

今回のワークショップは、タンパク質を作る方、使う方の両方を対象として募集しましたが、医農薬の企業とアカデミアご所属の方にご参加いただきました.使用している発現系も大腸菌・哺乳細胞を中心に無細胞合成系、昆虫など幅広く、使用目的も生化学アッセイから物理化学的評価、構造解析、抗体作製、プロテインエンジニアリング用途など多岐にわたっていました。さらに、事前アンケートで回答いただいた、困っていることや知りたいこと、議論したい内容などについて紹介し、活発な議論をお願いしました。

 

2.グループディスカッション①

前半のグループディスカッションでは、参加者それぞれが発言できる雰囲気を提供することを目的として、参加者の経験・レベルに応じた3つのグループに分けました。各グループで自己紹介を行った後で、自由なテーマでグループディスカッションを行いました。以下に各グループの話題をまとめます。

A(初級者):文献と結果が異なる時や、結合の証明、使用目的に応じた精製度について
Aグループの参加者は、学生さんや企業の新人研究員など、タンパク質の作製を始めた方々でした。文献と結果が異なる時や、結合の証明について、全長・部分配列といったコンストラクト・発現系による翻訳後修飾など材料自身が与える影響や精製度やバッファー組成、吸着など評価系自身が結果に与える影響について、情報共有をしました。その流れから、使用目的に応じて、精製度と必要量のバランスをとっていくことの難しさについて意見交換をしました。

後半は、精製や評価に使用するタグについて情報共有しました。Flagタグはアプリケーションが広く使用しやすいことに加えて、タグが使用時に邪魔になる際にはN末に付加して精製後切断できるメリットがあること、最近はHaloタグがアッセイでの利用を含め非常に有用に活用されていること、など用途に応じた使い分けについて意見交換をしました。

 

B(中級者):大腸菌で発現しない際の対策や翻訳後修飾について、精製に使用するタグやカラムについて
Bグループの参加者は現在タンパク質を自身で調製する方が主でした。タンパク質が発現しない対策として、教科書的な発現系、大腸菌株、発現条件の検討に加え、コドン最適化による改善や、グリセロールストックによる発現量の低下について情報共有しました。文献情報や共同研究者による実験の再現ができないことがあるのも問題として提起されました。

タンパク質の使用用途がSPRである参加者がいらっしゃったためSPRに用いるタンパク質の調製についての情報共有を行いました。SPRにタンパク質を用いる場合には、サイズ排除クロマトグラフィを用いた精製標品が望ましいという意見は共通でした。SPR用のタグとしては、Biotin標識体が最も良いということも参加者に共通の認識でした。精製バッファー条件の検討にはDSF法を用いることがあげられました。

 

C(上級者):過去のタンパク質精製の苦労、経験の共有
Cグループの参加者は、生化学的アッセイや構造解析を目的としたタンパク質生産に長い年月にわたって携わった経験者ばかりでした。参加者の皆さんは、技術的な悩みよりもむしろ、タンパク質生産の技術や経験の継承に危機感を覚えて参加されたようです。組み換え技術やアフィニティクロマトグラフィが一般的になる前からタンパク質の調製に取り組んでこられた方からすると、タンパク質の性質や生化学を理解してきちんと発現・精製ができる人材はますます減っていると感じているようです。様々な研究ツールが開発されて便利になりましたが、なにか想定外のトラブルが発生したり結果が思わしくない場合に、豊富な経験や知識が役立つ点で、意見が一致しました。

 

3.グループディスカッション②

グループディスカッションの後半は、「タンパク質を作る」と「タンパク質を使う」の2つのグループに分け、各グループで自己紹介を行った後、グループディスカッションを行いました。
 

「タンパク質を作る」
有機溶媒の中でタンパク質を作るといった通常思いつかないアイディアが出たり、リポソームの中で作ることでエクソソームと同じ大きさであり、機能ミミックとして使う方法が提案されました。タンパク質の保存については、一般的なグリセロールの濃度の検討に加え、リン酸バッファーは溶かすときにpHが変化するためタンパク質によってはNGであることなどベテランの方でも,謎が解けたというようなノウハウを共有できました。
 

「タンパク質を使う」
SPRでFittingできない場合の原因について(発現系の影響や精製度)についての議論の他、モダリティによる発現系の変化、その変化に応じたスループット良くタンパク質を調製するための現状の情報共有がありました。また、全長かTruncateかについては、各組織による考え方の違いが大きくでる部分であることが意見交換の中で明らかになり、使う人と作る人とのコミュニケーションが重要であることの認識が得られました。

 

4.まとめ

今回、タンパク質発現のWSは初の企画でしたが、ディスカッションを通じて、多くの参加者の方にタンパク質を作ること、使うことに王道(ゴールドスタンダード)はなく、経験や知識を総動員して問題を解決していく必要があることを理解していただいたようです。最後に、モダリティの変化や複合体蛋白質について、あるいは高難度蛋白質を作る問題をいくつか準備しそれをベースに議論してみようか、など来年度の開催に向けたアイディアを出し合ってWSを終了しました。