安藤 雅光(株式会社ニコン/元Axcelead Drug Discovery Partners)
出井 晶子(理化学研究所)
今村 理世 (東京大学創薬機構)
24名(当日1名欠席、ファシリテーター含む)
製薬企業 12名
大学など研究機関 7名
メーカー 5名
概要
募集要項
経験:経験不問・スクリーニングに興味のある方
(ただし、過去にこのWSへの参加経験のない方を優先)
内容:
スクリーニングフローの構築方法や考え方について、広く学びたい方
ご自身が考えるヒット選抜や化合物の絞り込みフローに、疑問や不安を感じている方
目的にあったプロファイルを持つ化合物を取得するための「化合物の絞り込み」にこだわりたい方
薬効とADMETのバランスを考えつつ、魅力あるヒット化合物を選抜するためにどのようなアプローチが有効かについて議論したい方
WSの進行と議論内容
WSの狙い
本WSでは、議論を通じて自分たちでフローを構築することにより、戦略的なフロー構築の重要性について理解を深めてもらうことを目的としている。対象者を初級者向けとして、2019年のWSとほぼ同じ内容(生活習慣病治療薬を想定した架空の酵素A阻害剤の探索、先行品はあるがvivoで効かない、など)であることを提示して、初参加の方を優先に募集した。初心者ばかりになってしまうと、議論を進めることが難しくなるため、2回目以降の方も類似内容であることを了承の上、お申込みいただいた。
一方、今年のWSでは特に「薬効とADMETのバランスを考えつつ、魅力あるヒット化合物を選抜する」ことに着目した。ADMET関連の知識を深められるように、説明の時間を追加して、フローの中にADMETの試験を組み入れていくための議論もできるよう考慮した。
実際の参加者について
事前アンケートの結果から、全参加者のうちランダムスクリーニング経験なしの方が1/3弱、1-3回の方が1/3、4-10回が1/5、10回以上が1/6と、半分以上があまりHTS経験のない方であり、その方々含めて3/4が本WS初参加であった。専門分野は、約1/3がHTSで、もう1/3が薬効薬理、残りの1/3は、合成、化合物ライブラリー、薬物動態、安全性や遺伝子工学など様々だった。化合物絞り込みのスクリーニングフローについては、フェノタイプアッセイや蛋白間相互作用アッセイで課題を感じていること多いことがわかった。
事前準備
事前に、当日のタイムテーブルや議題の内容・アンケート結果等についての資料を参加者全員に配布し、情報共有を図った。(事前に当日の議論の内容や試験項目を知ることで、一人で考えてみたり、わからない単語を調べておいてくれたりすることを期待した。効果は・・??)
当日の各グループでの議論とフロー作成のため、1グループにつき模造紙3枚、選択肢カード(試験項目などが書かれた短冊)1セット、ペン2本、のり1個 を配れるように準備した。掲示用のホワイトボードとマグネットについても手配した。
当日の流れ
当日はまず資料の説明(チャタムハウスルールとWSの進め方、アンケート結果の共有など)を行い、ADMETについての考え方を説明した。その後、スクリーニングフローを構築してもらう架空の研究テーマ(議題)についての詳細と、本WSで用いる用語(ヒットの呼び方や試験項目)の定義を説明した。議論が必要以上に拡散しないように、取得したい化合物像や使用するライブラリーなど背景をできるだけ明らかにした上でPrimaryHTSのアッセイ系を設定してもらえるよう配慮した。
その後の55分間で、参加者は7-8人のグループに分かれて、目的とするプロファイルを有する阻害剤を探索するためのスクリーニングフローについて議論し、フローを構築した。特にグループ内の議論では、主薬効試験・カウンター試験・確認試験・種差試験などの評価系を実施する順序について、化合物構造確認やADMETの各種試験を実施するタイミングなども考慮して、該当する試験項目のカードを、適切と思われる順番に配置してもらった。その際、検出系やプレートフォーマット、化合物濃度などの情報もカードに記入し、必要と思われるアッセイ系の追加や、不要と思うアッセイ系は使用しないなど、ディスカッションによりできるだけ自由にフローを構築してもらうようにした。また「Primaryヒット」「HTSヒット」はどの段階で認定するか、メドケムやADMETの担当者がどの段階で参画するか、などもカードを用意し、フローに盛り込んでもらった。
フロー作成時間が終わったら、各グループで構築したスクリーニングフローについて、グループでの議論内容も含めて、各々3分間で発表してもらった(発表順 A→B→C)。各発表後に会場の参加者との質疑応答の時間を設けて、それぞれのフローの優れた点や改善点などについて意見交換を行った。最も理想的だと考えられるスクリーニングフローへの投票(1人1票)を行ったが、自分のグループに手を挙げた人が多かった(各グループともに、納得してフロー構築ができたということかも?)。
最後のまとめとして、ファシリテーター3名が考えたスクリーニングフローも発表し、「スクリーニングフローは、化合物探索戦略そのもの」であることを示した。
各グループの議論とスクリーニングフローについて
3グループともに、フルライブラリースクリーニングを考慮して、PrimaryHTSには1536プレートを選択した。検出系は、AグループHTRF、Bグループ発光、Cグループ蛍光と設定した。濃度は、A・Cグループが10 μMとしたのに対し、Bグループでは10・2 μMの2点でパイロットスクリーニングを行い、濃度を決めてからPrimaryHTSを行うとした。
今回ADME関係の試験項目を増やして、(in vivoで効かないことで)ADMEの重要性が示唆されており、A・Bグループではフロー後半でまとめてADME試験を行い、合成展開しながら代謝吸収の良いものを取ろうという姿勢が感じられた。
3グループともに、粉サンプルでの活性確認を行ってから「HTSヒット」を確定していた。
メドケム参加のタイミングは、AグループはHTSヒット確定直後であったが、B・Cグループでは確定前から参加して構造確認等を行っていた。
確認試験について、Cグループでは酵素の確認試験をMSで、細胞での確認試験をHCSで行うとしたのに対し、Bグループでは細胞での確認試験(基質量の変化)をMSで行うとしていた。
今回、初めて「標的安全性評価」(酵素Aを阻害することで on targetの副作用が出ないことを確認する試験)を入れてみたところ、A・Bグループでは最初に評価実施としたが、Cグループでは最後に行うことになっていた。
今回も先行品があるという設定のもとでスクリーニングフローを考案してもらったため、前回と同様、いずれのグループでも最初の方で先行化合物のプロファイリングを行うこととし、先行品との差別化を意識していることが感じられた。
In vivoモデル試験をパスしたものをリードとする、ということも3グループともに共通であった。
まとめ
HTSから創薬につなげていくためには、どのようなプロファイリングの化合物を取得したいのかをきちんと考えて、戦略的にスクリーニングフローを構築する必要があり、化合物の絞り込みにどんなアッセイ系をどんな順序で組み合わせるかが重要であることを共有した。
スクリーニングフローは化合物探索戦略そのものであることから、実際のテーマを進めるにあたっては、テーマ課題との整合性、設定したスクリーニング系の妥当性(材料、反応時間、化合物濃度、クライテリアなど)、使用するライブラリーの数や内容、擬陽性排除方法の妥当性、カウンター試験とプロファイリング試験の位置づけ、スクリーニングフロー内での実施タイミング(実施時期)を、テーマに関わる各部署の担当者と事前に十分議論しておく必要がある。
WSの参加を通じて、多くの参加者の方にスクリーニングフローの答えは一つではないことを理解してもらえたと思う。今後の業務を進めるうえで参考にしてもらい、主体的にスクリーニングフロー構築を実践していく機会につながったのではないかと考えている。