代表理事 笹又 美穂
「創薬サクセスストーリー」
開催趣旨
創薬研究は、新しい治療法の開発に向けた重要な一歩です。研究者の方々は、その専門知識と情熱を持って、革新的なアイデアを追求し、医薬品候補化合物の発見や臨床試験の成功に向けて努力されています。
このたび、「創薬サクセスストーリー」と題したセミナーを企画しました。実際に上市された創薬プロジェクトを取り上げ、その過程で直面した困難や挑戦、そして成功への道のりを紐解いていきます。今回ご講演いただく講師の先生方のストーリーは、創薬研究に携わる皆様にとって、示唆に富んだ貴重な情報となることでしょう。
このセミナーが皆様の創薬研究に新たなインスピレーションや知識を提供し、ご参加いただいた皆様の成果を一層加速させる一助となることを願っております。皆様のご参加を心よりお待ちしております。
主催 |
一般社団法人スクリーニング学研究会 |
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共催 |
東京大学大学院薬学系研究科附属創薬機構 |
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日時 |
2023年7月7日(金) 13:30 − 15:30 |
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場所 |
Zoomウェビナーによるオンライン開催 |
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プログラム |
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参加費 |
無料 |
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参加資格 |
今回はより多くの方にご参加いただけるよう、特段の参加資格は設けておりません。 |
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定員 |
300名(定員になり次第締め切ります。) |
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参加方法 |
下記リンク先にアクセスし必要事項を記入の上お申込みください。
リンク先にアクセスできない方は、氏名、所属、連絡先(E-mail アドレス)、を明記の上、スクリーニング学研究会事務局にご連絡ください。 スクリーニング学研究会事務局 |
【重要】登録頂きました連絡先情報は研究会運営のため研究会事務局にて管理し、事務局からの連絡、一般社団法人スクリーニング学研究会主催・共催のセミナー等の案内に利用致します。事前の承諾なく個人情報を第三者に提供することはありません。
多発性硬化症治療薬「フィンゴリモド」の研究開発
田辺三菱製薬株式会社 創薬本部 フェロー
千葉 健治
要旨
フィンゴリモド塩酸塩 (FTY720) は、冬虫夏草菌が産生する天然物をリードとして、構造を変換することによって見出された低分子化合物であり、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体に作用するファースト・イン・クラスの免疫抑制薬であり、かつ多発性硬化症における世界初の経口治療薬である。1980年代後半に新しい免疫抑制薬の探索を目的として開始したアカデミアとの共同研究において、冬虫夏草の一種Isaria sinclairii菌の培養液から強力な免疫抑制物質ISP-I(マイリオシン)を単離した。しかし,ISP-Iはin vivoでの毒性が強かったことから、この天然物をリードとして不斉炭素をなくしたシンプルな化学構造の2-アミノプロパン-1,3-ジオールに変換することによって、強力な免疫抑制作用を示し、かつ毒性が大幅に軽減されたFTY720 を見出した。作用機序解析の結果、FTY720は、スフィンゴシンキナーゼによってリン酸化体 (FTY720-P) に変換され、S1P受容体に作用することが判明した。5種類のS1P受容体の中で、特にS1P1受容体は免疫系のリンパ球に高発現しており、リンパ球の体内循環に必須の役割を果たしている。FTY720-PはS1P1受容体にnMオーダーで作用し、受容体の内在化と分解を強力に誘導することが見出された。したがって、FTY720はS1P1受容体に「機能的アンタゴニスト」として作用することでS1Pへの反応性をブロックし、その結果、リンパ球の体内循環が制御され、免疫抑制作用を発揮すると考えられる。中枢神経系の自己免疫疾患である多発性硬化症の動物モデルにおいて、FTY720は0.03~1 mg/kgの経口投与で強力な再発抑制効果を示すことも見出した。そこで、再発性の多発性硬化症を対象とした臨床試験が実施され、第Ⅲ相試験では、FTY720(0.5 mg経口投与)は、当時の標準的治療薬インターフェロン注射剤を上回る優れた再発抑制効果を示すことが判明した。これらの結果から、多発性硬化症において世界初の経口治療薬(イムセラ®/ジレニア®)として2010年以降、日米欧を含む80以上の国で承認され、使用されている。FTY720は既存の薬剤よりも高い有効性を示し、世界初の経口治療薬であることから、アンメットメディカルニーズを満たし、服薬コンプライアンスの向上に大きく貢献することが期待される。本講演では、天然物の構造変換によるFTY720発見の経緯から臨床応用に至るまでの創薬アプローチについて紹介する。
- 学歴
- 1980年
- 東北大学薬学部製薬化学科卒業、薬剤師免許取得
- 1982年
- 東北大学大学院薬学研究科博士課程前期修了
- 1985年
- 東北大学大学院薬学研究科博士課程後期修了、薬学博士号取得
- 職歴
- 1985年
- 吉富製薬株式会社入社、東京研究所、研究員
- 1989年
- 研究主任、FTY720プロジェクトマネジャー
- 1994年
- 主任研究員、免疫グループマネジャー
- 1998年
- 主席研究員、免疫グループマネジャー
- 2001年
- 三菱ウェルファーマ株式会社 創薬第三研究所(免疫領域)所長(合併による社名変更)
- 2007年
- 田辺三菱製薬株式会社 薬理研究所 所長(合併による社名変更)
- 2011年
- プロジェクトマネジメント部 部長
- 2012年
- 先端医療研究所 所長
- 2014年
- 創薬本部 フェロー、慶應リサーチパーク 免疫細胞機能制研究室 共同研究代表研究者
現在に至る - その他の兼務
- 日本医療研究開発機構(AMED)プログラムオフィサー/評価委員/アドバイザー、
東北大学薬学部 客員教授、慶應義塾大学医学部 客員教授 - 受賞関係
- 2012年
- 日本薬学会 創薬科学賞 受賞
- 2013年
- 全国発明表彰 発明賞 受賞
- 2013年
- イノベーションジャパン2013産学官連携功労者表彰 科学技術政策担当大臣賞 受賞
- 2017年
- 大河内記念技術賞 受賞
MEK阻害剤「トラメチニブ」の研究開発
京都府立医科大学創薬センター センター長
酒井 敏行
要旨
がん抑制遺伝子RBは殆どの悪性腫瘍においてタンパク質レベルで失活している最も重要ながん抑制遺伝子である。私達はRBタンパク質の活性を制御するCDK活性を測定する装置をシスメックス社と開発し、がん診断に有用であることを報告した後、早期乳がんの再発予測診断としてC2Pブレストの商品名で実用化された。また、RBタンパク質を活性化させる果実飲料を見出し、RB7daysの商品名で販売されたので、今後がん等に予防効果を有するか検証したい。さらに、多くのがんにおいてドライバー遺伝子となる種々のがん遺伝子の活性化の結果、最終的にRBタンパク質が失活することに着目し、RBタンパク質を活性化させるCDK阻害因子の発現を上昇させる薬剤スクリーニングを創案し、「RB再活性化スクリーニング」と名付けた(Sakai T. "RB-reactivator screening" as a novel cell-based assay for discoveries of molecular targeting agents including the first-in-class MEK inhibitor trametinib (trade name: Mekinist). Pharmacol Ther. 2022; 236: 108234)。製薬企業とこの系を用いてスクリーニングを行なったところ、三剤の臨床試験に入った新規分子標的薬を見出した。その中の中外製薬と見出したファースト・イン・クラスのRAF/MEK二重阻害剤アブトメチニブはFAK阻害剤デファクチニブとの併用で、低悪性度漿液性卵巣癌に著効を示しBreakthrough therapyに認定された。また、JT総合医学研究所と見出した新規MEK阻害剤トラメチニブはBRAF阻害剤ダブラフェニブとの併用で、進行性BRAF変異メラノーマ他、20種類以上のBRAF変異進行がんを対象に臓器横断的に承認され、全世界で第一選択薬として用いられている。トラメチニブは我が国発の薬剤として初めて、British Pharmacological SocietyからDrug Discovery of the Yearに選ばれた。当日は、RB再活性化スクリーニングと、トラメチニブの開発の経緯について裏話も含めて詳細に述べたい。
- 昭和55年
- 京都府立医科大学卒業
- 昭和55年
- 大阪鉄道病院研修医
- 昭和57年
- 京都府立医科大学大学院医学研究科博士課程(公衆衛生学教室)
- 昭和61年
- 京都府庁衛生部保健予防課技師
(京都府立医科大学公衆衛生学教室助手併任) - 昭和63年
- 米国ハーバード医科大学留学(眼科学教室研究員)
- 平成3年
- 京都府立医科大学公衆衛生学教室助手
- 平成6年
- 同講師
- 平成8年
- 同教授
- 平成15年
- 京都府立医科大学大学院医学研究科分子標的癌予防医学教授
- 平成30年
- 京都府立医科大学大学院医学研究科創薬医学教授併任
- 平成31年
- 京都府立医科大学創薬センターセンター長
京都府立医科大学大学院医学研究科創薬医学特任教授 - 受賞歴
- 平成5年
- 和歌山県文化奨励賞
- 平成7年
- 日本衛生学会 奨励賞
- 平成20年
- 日本衛生学会 学会賞
- 平成26年
- 高松宮妃癌研究基金研究助成金
- 平成26年
- 日本医師会医学賞 社会医学部門
- 平成26年
- 京都新聞大賞・文化学術賞
- 平成28年
- 日本がん分子標的治療学会 鶴尾隆賞
- 平成30年
- 高松宮妃癌研究基金学術賞
- 平成30年
- 日本医療研究開発大賞 文部科学大臣賞
- 平成31年
- 日本薬学会 創薬科学賞
- 令和元年
- 紫綬褒章
- 令和元年
- SGH特別賞
- 令和2年
- 和歌山県文化賞