1.血栓溶解促進物質の探索・SMTPの発見と脳梗塞治療薬開発を振り返って

株式会社ティムス取締役会長・東京農工大学特任教授
蓮見惠司

要旨

演者は1980年から40年以上に渡って探索研究に関わってきた。世界で一番売れたコレステロール低下薬スタチンの創始者・遠藤章博士から手ほどきを受け、1997年までの17年間研究を共にする幸運に恵まれた。その間、いくつかの新規化合物を含む興味深い活性物質と出会えたが、開発に進められる化合物は現れなかった。しかしながら、ここで得た経験がその後の研究と薬つくりを支える礎となった。

最も大きなインパクトの一つは、探索研究の奥深さに触れたことである。現在の医薬品開発は、当たり前のようにランダムスクリーニングから始まるが、大学での基礎研究でランダムスクリーニングを行うことに強い違和感があった。しかしながら、今や、「探索研究こそが新しい景色を見るために一歩踏み出す武器である」、とまで考えが変わった。この講演では、1990年代半ばから手掛けた「血栓溶解を促進する化合物の探索研究」から生まれた新規脳梗塞治療薬候補化合物SMTPの発見と非臨床開発、臨床開発(第1相、前期第2相)までの道のりを振り返りつつ、探索研究の醍醐味について私見を述べたい。
 

【略歴】

東京農工大学農学部にて、1980年修士課程から、研究生、博士課程を経て1988年助手、1994年助教授、2003年教授を経て2023年定年退職まで生理活性物質の探索研究を行い、発見した生理活性物質の作用・薬効評価を通じて、酵素前駆体の立体構造変化の誘導する生理活性物質による機能制御の概念を見出した。その流れを汲む化合物SMTPの非臨床開発・臨床開発(第1相、前期第2相)を、株式会社ティムス代表取締役(2011—2018年)として主導し、新たな機序の脳梗塞治療薬の開発の礎を築いた。これにより、SMTPのバイオジェンへの導出(2018年オプション契約、2021年同契約実行)と株式会社ティムスの上場(2022年)を達成した。現在、同社取締役会長、東京農工大学特任教授として新規医薬品の探索・開発を継続している。

 

2.サメから創る最小抗体VNAR

愛媛大学 プロテオサイエンスセンター プロテオ創薬科学部門 部門長・准教授
竹田浩之

要旨

VNARは軟骨魚類が持つ重鎖抗体IgNARの可変ドメインを切り出して創られる12 kDaのシングルドメイン抗体である。VNARはIgGやVHHと異なりCDR2を持たず、長いCDR3ループが抗原の立体構造を認識して高い親和性で結合する。他にも高温や極端なpHで変性しても構造や活性に戻る可塑性、バクテリア生産、高い改変自由度など、非常に魅力的な性質を有している。サメに対する免疫がVNAR作製においてボトルネックの一つであったが、我々は愛媛県近海に棲息する未利用水産資源であるエイラクブカ(Hemitriakis japonica)を免疫動物として注目した。エイラクブカの安定供給経路の確保、陸上飼育技術やエイラクブカ免疫技術、抗エイラクブカIgNAR二次抗体の開発、VNARディスプレイライブラリの構築などを達成し、エイラクブカVNAR開発プラットフォームを確立した。これまでに蛍光タンパク質、転写因子、受容体の細胞外領域、ウイルスタンパク質などに対するVNAR取得に成功しており、その中には1 nM以下の高親和性VNARや、受容体の阻害活性を持つVNARも得られている。また最近では高圧リフォールディングによるVNAR大量生産やVNARのミニチュア化にも成功している。本講演ではVNARやミニチュアVNARの取得例を紹介し、高い浸透性やクリアランス、立体構造認識などの特徴を持つVNARの新しいモダリティとしての可能性について議論する。
 

【略歴】
2004年
広島大学生物圏科学研究科修了(櫻井研)博士(学術)
2004年
生物情報解析研究センター(五島研)特別研究員  
FLJ cDNAライブラリを活用したプロテインキナーゼ網羅的機能解析
2006年
(株)オキシジェニクス・研究員 シンガポールユニット
2008年
京都大学農学研究科(村田研)特定研究員 
バイオ燃料生産菌の分子育種
2011年
愛媛大学無細胞生命科学工学研究センター(遠藤研)助教 
無細胞膜タンパク質合成技術開発
2013年
愛媛大学プロテオサイエンスセンター (澤崎研)助教
タンパク質間相互作用を指標としたハイスループットアッセイ系、抗膜タンパク質抗体作製など
2016年
愛媛大学プロテオサイエンスセンター プロテオ創薬科学部門 部門長・准教授
私の研究室ではタンパク質工学を基盤とした創薬技術開発に取り組んでいます。サメVNAR抗体作製プラットフォーム開発、コムギ無細胞タンパク質合成技術を用いた発現困難タンパク質の合成、ヒトプロテインアレイの整備と網羅的相互作用解析、薬剤ターゲットバリデーションなど。産学共同研究、大学院生の受け入れなど、随時受け付けています。気軽にご連絡ください。