システイノミクス創薬(共有結合型薬剤創製基盤)による高選択的FGFR阻害剤フチバチニブの創製
大鵬薬品工業
伊藤 智
要旨
共有結合型阻害剤はその作用機構により、従来の可逆的阻害剤と比較して強力な薬効、高い選択性および持続時間の増加などが期待されています。このような作用機序を持つ薬剤は古くから使われており、その代表例としてはアスピリンやペニシリンが有名です。これらの薬剤を含む多くの化合物はセレンディピティーによって見出されてきた歴史がありますが、2010年頃を境にタンパク質の3次元構造情報を活用しながら薬物設計を行い、標的タンパク質に特異的に結合するTargeted covalent inhibitor(TCI)の開発がさかんに行われるようになっています。特にプロテインキナーゼを標的としたTCIは、その豊富な3次元構造情報を利用して、2022年までに米国食品医薬品局(FDA)から7つもの薬剤が承認を得るまでに至っています。一方我々も自社独自の創薬基盤技術の一つとして、システイノミクス創薬(共有結合型薬剤創製基盤)の構築に取り組んでおり、今日までに複数のクリニカルパイプラインを生み出すことに成功しています。本講演会では2022年8つめのプロテインキナーゼTCIとしてFDAより迅速承認を受けたFGFR阻害剤フチバチニブ創製を例として、化合物ライブラリの構築、化合物スクリーニング、ヒットプロファイリング、ヒットトゥリードケミストリーの各創薬プロセス、および共有結合型化合物が持つ薬物プロファイルを紹介したいと思います。
【職歴】
- 1993年
- 万有製薬株式会社入社 化学研究部配属
(前半は創薬プロジェクトにてメディシナルケミストリー業務、
後半はコンビナトリアルケミストリー・パラレル合成・自動合成などの
合成系技術基盤開発に従事) - 2007年
- 米国Merck社 ボストン研究所出向
- 2009年
- 大鵬薬品工業入社 ケミカルバイオロジーグループ配属
- 2017年
- 創薬基盤技術研究所 化学基盤研究室 室長
- 2022年
- 創薬基盤技術研究所 所長