理化学研究所 / 宮脇敦史

要旨

(以下は、宮脇敦史著 「蛍光イメージング革命」(学研、秀潤社)より引用)

人は皆画像を2枚並べて比べるのが好きなのだと思う.瞭然たる差に驚嘆したり,些細な差を見いだそうと日を凝らしたり,日常しょっちゅう比較を楽しんでいる.Live Cell lmaging は文字どおり,生きた細胞をサンプルとして扱う。同一のサンプルから複数の画像を取得しその時間的変化を議論する.例えばある刺激をサンプルに加えてビフォーとアフターの画像を比べる.Live Cell lmaging の実験結果のエッセンスは一対の画像によって象徴的に表せることがある.ビフォーアフターと言えば,発毛剤や育毛剤の宣伝も気になる.使用前後の頭の写真が並んでいるのを見かけるが,数カ月を超える時間差が気になる.単に栄養状態がよくなっただけじゃないの?などと疑いだすときりがない.こういう場合はやはり内部参照を設けるべきである.例えば,頭の片側だけに薬を塗り続ける勇気ある試用者はいないものか!非対称に拡がるふさふさの頭は薬の効能を決定的に実証するはずなのに.

1つ1つの頭の内で比較すると確かなことが言えるように,1つ1つのペトリ皿の内で比較することがもっとあってもよいと思う. やっぱり比べるものは同じ土俵の上じゃないと!例えば,分子Aの存在によって分子Bの活性化が増強されることを調べる実験を想定する. 分子Aの遺伝子をトランスフェクションした細胞としていない細胞を別々のペトリ皿に用意し, それぞれについて分子Bの活性化を蛍光イメージングするような実験が一般的である. でも,多少の労をいとわず分子Aに蛍光タンパク質を連結(2Aペプチド介在型でもよい)させておくのがよい. そうして,1つのペトリ皿の中に分子Aプラスとマイナスの細胞を適度の比で共存させるのがよい. 顕微鏡の一視野内で,特別な統計的処理をしなくても,分子Aの発現量と分子B活性化の間の相関を直感できることがあり, そんなとき我々は “seeing is believing.”と領くのであろう.

あえて蛍光イメージングを施行するのであれば,すなわち1個1個の細胞を別々に観察するのであれば,視野内の細胞はヘテロであるほうが格段に面白い.例えば,コンフルエントになる手前(セミコンフルエントの状態)で観察すれば「細胞間接着」を,細胞周期を観るプローブを用いれば「細胞周期」を独立変数として取り上げることができる.変数の数が少し増えると,実験のデザインとデータの解析が格段に面白くなる.