国立国際医療研究センター / 杉山真也 先生

要旨

ナショナルセンターバイオバンクネットワーク(NCBN)は、6つの国立高度専門医療研究センター(NC)が「新たな医の創造」に向けて個々の疾患専門性を活かして運営するバイオバンク事業である。本事業では、NCBNが収集する臨床情報付きの生体試料を幅広く活用し、産学の連携による医学研究への活用を目指している。

国立国際医療研究センター(NCGM)のバイオバンクでは、感染症・代謝疾患・免疫異常を中心に検体収集を行っている。中でも肝炎領域は、肝炎・免疫研究センターが中心となり、肝疾患に関わる検体収集を10年以上継続して行っている。本講演では、当該バイオバンクの検体を利用して実用化に至った例を紹介する。

C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染することで発症し、国内に約100万人の感染者がいると推定されている。C型肝炎は年数を経て、肝線維化、肝硬変、肝がんへと進行する疾患であるため、HCVを排除することがこの病態進行を止める上で必須である。C型肝炎の治療薬は、かつてインターフェロンアルファ製剤が主流であった。このインターフェロン治療は、30-50%の患者で効果を示し、ウイルス排除に至る。一方で、治療薬による副作用の発現が問題ともなっていた。そこで、我々は、この治療効果を規定する因子の探索をゲノムワイド関連解析で行った。その結果、IL28B(IFN-lambda3)遺伝子の多型が治療効果を規定することを発見した。

また、治療に伴う貧血の出現には、ITPA遺伝子の多型が関連することを明らかとした。 また、肝炎治療では、肝がん発症を抑制することが重要である。そのために、様々な侵襲的、非侵襲的手法で肝臓の状態を確認している。血液検査は侵襲性が低く、様々なマーカーを同時に測定できるメリットがあるが、肝臓を直接観察できないため、その病態を正確に反映する検査マーカーが求められていた。そこで、我々は、タンパク質上の糖鎖の違いを認識するレクチンアレイを用いて、新規検査マーカーとしてM2BPGiを同定した。M2BPGiは、糖鎖分子であり、肝線維化と相関することを見出した。これは、従来の肝線維化マーカーよりも優れており、短期間で保険収載となった。また、本分子は、肝がんの発生とも関連が示唆されており、発がん予測マーカーとしても期待されている。

このように、バイオバンクで収集した各種臨床検体を利用することで治療応答に関わる遺伝子や肝病態を反映する分子の同定を行ってきた。現在も分譲と共同研究の両面で検体分与を行っており、産学連携による医学研究へ発展を目的に今後も連携を進めていく。