協和発酵キリン株式会社 創薬化学研究所
山田 祐資

帝人ファーマ株式会社 創薬薬理研究所・創薬化学研究所
酒井 由里

日本たばこ産業医薬総合研究所 生物研究所
堀 浩一郎

【概要】

創薬支援システムにおける以下の3領域について議論したい。  

  1. データベース
  2. データ可視化ツール
  3. 生物系電子実験ノート

参加者は製薬企業・大学等のシステム/データ解析担当者に限らずデータベース・解析ツールの実際のユーザを想定している。

HTSが始まった20年近く前の創薬システムは「データを溜めること」が最大の目的であり、各種のレポート機能を持った創薬データベース製品が群雄割拠していた。数年が経過してある程度のデータがたまってくると今度は「データを見たい、再利用したい」というニーズが高まり、データの可視化ツールに注目が集まった。当初はSpotfireが創薬データの可視化ツールのデファクトスタンダードであったが、近年ではビッグデータ解析がトピックとなり、さまざまなデータ可視化ツールが世に出てきている。

またデータ処理についてPipeline PilotやKNIMEなどのデータ処理系のワークフローツールを導入する企業も増えており、また統計解析においてはSAS、JMP等のベンダー系ツールだけでなくR等のオープンソースツールも広く利用されている。

一方で世間を騒がせたある事件で明らかになった実験ノートの運用・管理の問題から、化学系だけでなく生物系でも電子実験ノートを導入する製薬企業が増えてきている。このように創薬支援システムは時代と共にトピックを変えながら進化を続けてきている。

本分科会では「データベース」、「データ可視化ツール」、「生物系電子実験ノート」の3領域について現状を俯瞰し、問題点を議論し、今後何が創薬支援システムのデファクトスタンダードになるかを考察したい。

事例発表:「バイオELNは本当に要るの?」

ラボコンサルテーション株式会社
(前職 アスビオファーマ株式会社)
島本 哲男

製薬や化学業界の合成化学研究の現場では、過剰とも言える法規制対応のためにELN(電子実験ノート)は必需品のようになっている。また、開発ステージにおいても規制当局がデータ管理の電子化を求めているために、CMCや製造現場、品質管理の部門などで電子システムの導入を進めざるを得ない状況にある。その一方で、探索研究ステージでの評価系や薬理実験などのいわゆる"バイオELN"は、検討を始めている組織も少なくないが、展開は遅々として進んでいない状況にある。日本の数年先を進んでいる欧米においても、同様の傾向にある。

展開速度に差が発生する原因を追究すると、歴史的に特許対応のための書き方への教育の深さの違いがあっただけでなく、研究実施のスタイルや、データの扱い方やそこに期待するものなどのスタンスが、研究分野によって異なっていたことによるものと考えられる。

では、科学の根源を揺るがすような事件があってから、探索部門の研究においても各種研究データの保全水準向上の必要性が叫ばれている昨今の時勢において、本当にバイオELNは研究者にとって必要なものなのであろうか?もし必要である、あるいは使ったほうがよいのであれば、どういう環境を整備していけばよいのであろうか? 実際のバイオELNの活用事例を基に、近年の欧米での研究情報管理の方向性とともに、近未来の研究スタイルを想定してみたい。