第6回スクリーニング学研究会 Workshop まとめ
【Track 1】PPI創薬:タンパク-タンパク相互作用(PPI)阻害剤を指向したライブラリーをどう構築するか?
本ワークショップは事前に行ったアンケート結果をまとめる形で議事を進行し、各質問への回答を紹介しながら、会場での議論を行った。また、国立研究開発法人日本医療研究機構様より事業内容を紹介いただき、次世代創薬シーズライブラリー構築プロジェクトにおける次世代PPI阻害ライブラリーのご説明を頂いた。また本事業に採択された2企業から、各々のPPIライブラリーに関するアプローチやその特徴について話題提供をいただいた。また、PPIライブラリー化合物に求められる要件、性状などについて紹介いただいた。
【Track 2】化合物管理Advanced 議事録
ライブラリ共有・交換対応、DMSO溶液の品質の維持・向上の2つをトピックスとして選択した。
ライブラリ共有・交換対応については、事前アンケートにて課題と感じている点について、参加者の経験を出し合う形式で議論を進めた。
DMSO溶液の品質の維持・向上については、品質の要素、品質の要素が与える影響、品質に影響を与える要因、対策という観点で、それらを体系的に結び付けるような試みを行った。
主な内容は以下の通り。
【ライブラリ共有・交換対応】
近年、製薬各社で創薬チャンスを増やし、自社研究を加速させるため、化合物ライブラリの共有化や、ライブラリの交換、提供、受領を行う機会が増えてきている。ライブラリ交換は、溶液試料をプレートに入れて交換する場合が多いが、各社にて業務フローが違うため、プレートの違い、プレートフォーマットの違い、液量・濃度の違い、構造開示の有無等により、自社業務フローに載せるのに困難があるという課題がある。それらの課題に対し、ライブラリを受領した後で出来ることは限られているので、契約締結の早い時点で実務担当者が話に加わり、両者にとって最も利便性が高い形態で合意し、それでも残った自社フローとの違いは、プレートをまとめて別ライブラリとして管理し対応するのが良い。また、交換できる化合物は各社溶液状態での保管量に依存し、大抵の会社では数十uLの溶液試料を提供できる環境にあるため、このサイズの量での交換が行われ、その後の活用方法を検討していくことになると考えられる。
【DMSO溶液の品質の維持・向上】
HTSによる多数の化合物を評価するようになって、様々な物性の化合物に溶解性を示し、比較的安定に保存でき、培養細胞へのダメージも比較的軽度な有機溶媒であるDMSOに溶解させて保管することが一般的になっている。一方で、DMSO溶液の保管状態、保管期間によって品質の低下が懸念されることが公知とされている。本WSでは、まずDMSO溶液で懸念される品質の要素として、純度、濃度、量、物性、データの正確性、ライブラリ妥当性を挙げ、次に、品質低下の影響や、品質低下の要因、さらに品質の維持・向上に向けた対策について、キーワードやフレーズを列挙しながらそれらの関連性を議論し、その相関図を作成するに至った。本WSで作成した相関図を元に各社具体的な対策を練って頂くとともに、次年度も引き続きこの内容についての議論を進めていきたい。
【次回以降の課題】
前回までは、WS前半はグループ分けした少人数で議論し、後半はそれを元にした全体での議論を行う形式で進めていたが、前回のアンケートでは、全体議論形式で進めてほしいという意見や、回をまたいだ継続性が欲しいという意見があり、今回はそれを意識した進行を行ってみた。今回のアンケート内容を参考にし、次回の進行に反映させていきたい。
【Track 3】化合物管理Basic サマリー
今回は、「先人に学べ!」と言うタイトルを掲げ、小野薬品の化合物管理システムを題材として、事前アンケートの内容も踏まえて自らの状況と比較しながら、全員参加で意見を述べ合う形で進行しました。
以下、事前アンケートから抽出した項目を中心にまとめます。
【管理体制】
各機関共通して人員、人材の不足を感じていました。特に研究施設によっては専任の担当者が居らず、他の業務に加えて、しかも全く経験の無い状態で任命されるということもありがちなようです。 これに対しては、サンプル管理・提供を集中して行うことの利便性と、効率性を具体的に示せるようになれば、専任の担当者を配置することに同意が得られやすくなるであろう、といった意見がありました。
【溶液調製】
昔からある粉末秤量時の静電気の問題で、やはりこれといった決め手はありませんが、一般的にはイオナイザーの使用、高めの湿度設定、容器の選択等の対策が講じられています。高活性化合物の取り扱いについては、現在十分な対策がなされていない施設もあるようで、専用の容器、場所、換気装置、専任の担当者等の配置が望まれます。DMSOに完全に溶けない物質に関しては、チェックは目視で、溶けない物は溶けていないなりに使用する、と言う所が多いようです。
【分析】
サンプルのQCにおいて、サンプル含量の簡便な測定法があれば知りたいとの質問があり、それに対してライブラリーサンプル全てに対してELSDで含量を測定していると答えた施設がありました。
【保管】
溶液についてはシールとプレートの不適合等により接着が甘い現状を訴える方がいました。材質や組合せに原因があると思われ、好ましい製品について参加者から意見が出ました。自動保管庫の空きスペース確保やソフトウェア更新に関する質問や改善策についても様々な取り組みが紹介されました。
【その他】
化合物管理関連のIT systemに関しては、IT担当部門の直接的なサポートが得られていない施設もあり、元の担当者が異動になった場合には、引継ぎが困難になるというケースがあるそうです。
今回は、参加者18名と少な目の人数であった為か、例年よりも参加者全員による意見交換が出来ており、なかなか充実したワークショップになりました。 Basicということで、あえて話題を絞らず出来るだけアンケートの内容にも応えられるような構成を心がけてきましたが、今後もこの様な進め方で継続していければ、と思っています。
【Track 4】iPS細胞の利用
発表: 宮本憲優(エーザイ 心筋)、井上智彰(中外製薬 肝)、
板野泰弘(帝人ファーマ 神経)、細胞性状(武田薬品工業 篠澤忠紘)
日本製薬工業協会・ 医薬品評価委員会・基礎研究部会内のタスク フォースチームが事務局として発足した“ ヒ ト iPS 細 胞 応 用 安 全 性 評 価 コ ン ソ ー シ ア ム ( CSAHi :http://csahi.org/index.html) ”のメンバーの方々から、iPS 細胞由来心筋細胞・肝細胞・神経細胞の探索初期研究での薬物安全性評価試験への応用実現性の検討結果を発表していただいた。4氏から心筋、肝、神経、細胞性状について発表があった。市販されているそれぞれの細胞を用いて評価を進めている。iPS 細胞由来の、心筋細胞での薬物誘導の心リスク評価、肝細胞の満たすべき特性の考察、神経細胞での痙攣誘発リスク評価、それらに用いた細胞の性状について紹介された。iPS 細胞由来心筋細胞を用いた Torsades de pointes リスク予測に関しては、国際的な連携がはかられている。日本ではJapan iPS Cardiac Safety Assessment (JiCSA) 研究プロジェクト、米国ではComprehensive in vitro Proarrhythmia Assay (CiPA) Initiativeがそれらの主体であることが紹介された。
【Track 5】HCS_advanced まとめ
16名(+ベンダー3名)にご参加いただいた。 最初に自己紹介を行い、各参加者が使用しているHigh Content Screening (HCS)機器やHCS実施経験、現在困っていることなどを説明していただいた。続いて、事前に行ったアンケート結果をもとに議論を行った。主な意見は以下の通り。
【HCS使用機器】
現在使用している/興味のある測定機器について、機器のスペックや参加者の使用方法について情報交換が行われた。参加者の使用測定機が複数メーカーに渡り、それぞれの測定機毎に議論が進んだ。plate搬送スタッカーについては深い議論はなし。解析ソフトは測定機器に付属のソフトを使用されている方が多かった。
【HCSアッセイ系構築】
使用しているplate format、撮影対象及びその検出法、1次抗体の選定、細胞の固定方法、plate wash方法などにについて議論された。測定画像解析については各参加者が最も苦慮されている所であり、解析プロトコル作成の工夫や測定画像の目視確認の重要性などが議論された。
【HCS戦略】
参加者の所属組織の現在のHCSへの取り組み方、将来取り組みたいHCSについて議論がなされた。live cel imagingやphenotypic screeningについて興味がある参加者が多かった。また、画像データの保存状況、レポート化や社内での共有用法などについて議論がなされた。
【所感及び次回以降の課題】
本年はHCS_Basicが無くなったため、これからHCSを始める方から上級者まで幅広い層の方にご参加いただき、多様な意見が見られた。今後は議論したい項目をもう少し減らして深い議論が行えればと思う。
【Track 6】セルベースアッセイB(初級編)
ファシリテーター;塚原(エーザイ株式会社)、村越(第一三共RDノバーレ株式会社)
参加者 約25名
ワークショップでは、まず初めに事前アンケートの集計結果を紹介しました。アンケートは、主に、参加者の細胞アッセイの経験と現在抱えている問題を確認させていただく内容でした。アンケートの集計結果から、「ばらつきの改善」が参加者の方の共通の課題として挙げられていることを確認しましたので、今年は『Cell based assay の安定化』をテーマに、3つのグループに分かれてラウンドテーブルディスカッションを行っていただきました。細胞アッセイを経験する中で、Well to Well, Plate to Plate, Run to Runのそれぞれのばらつきの原因について①うまくいった工夫②使ってよかった試薬・器具・装置などについて情報共有を行いました。
その後、ディスカッションした内容や特に印象に残った話題を各グループからご発表いただき、参加者全員で討論しました。様々なアイデアが参加者から提示され、活発な意見交換がなされました。
参加者が今年度は約25名と昨年度に比べて少なかった分、参加者の方たちの発言を引き出しやすい環境にあったように感じています。セッションにおいては、共通の問題を抽出し、議論し、解決していく中で、横のつながりが形成されることにも注力しました。今回の取り組みが今後開催される各種セミナーや学会などで交流していくことのできる仲間として『つながり』形成のベースになれたら幸いです。
【Track 7】創薬スクリーニングへの三次元/スフェロイド細胞培養技術の応用 結果報告
本ワークショップへの参加者は約40名で、一般とベンダーが半々の構成となった。始めに参加者の自己紹介、事前アンケートの結果報告、日産化学の三次元HTSの実施例紹介がされた。そののち事前アンケート結果から関心度の高かった①スフェア/スフェロイド作成技術について、②三次元培養評価系について、2グループに分かれたディスカッションを行った。この際、2つのテーマについてベンダー数社によるショートプレゼンテーションを行ってもらい、冒頭の日産化学による事例紹介とともにディスカッションを始めるきっかけとした。
日産化学より三次元培養用培地を用いた抗がん剤HTSの実施例紹介を行った。培地への添加物で細胞浮遊性能を付与することにより、細胞を三次元的に分散培養し、多量のスフェアを作ることができる。培地の粘性が低いため従来の自動分注機で扱うことができ、HTS化が容易である。
長い実績がある軟寒天を用いた手法に対し、近年開発されているプレート、ハンギングドロップ、三次元培養培地等の方法はスフェロイドサイズの制御、評価にかかる時間、精度の面で、優位性があると考えられる。iPS/ES細胞の胚葉体培養が可能であるという点も重要である。特に、均一な大きさのスフェロイドを作成しやすいことは高いメリットがある。一方、軟寒天は一般的で利用しやすく、評価の段階に応じて手法を選ぶなど効果的な使い方を検討していくべきである。
スフェロイドのアッセイについては増殖アッセイとイメージングが主流。ライブセルでの評価も可能になり多くの情報を取得できる反面、スループットやデータ処理(大量データストレージや画像解析など)は問題として提起された。アッセイの一部に培地交換過程が含まれる場合、プレート底面にスフェロイドが接着しているタイプや、U字底、V字底のタイプが比較的交換しやすいとの意見。培地の全量交換ではなく、培地上部からの半量交換にすることで細胞のロスを低減させることができる。やりたい用途や評価法に応じて適切なスフェロイド作成デバイスを選択する必要がある。
その他、各種三次元培養方法で足場依存性/非依存性細胞の区別が可能かどうか、スフェロイドのサイズと薬剤浸透性・感受性について、三次元培養で使用できる細胞増殖の指標、同一ウェルで複数スフェロイドを評価した場合のスフェロイドごとの感受性・反応性の違い、スフェロイドの内部と外周部の違い(薬剤応答性や遺伝子発現)、その評価法、三次元培養で用いられるイメージングのパラメーターと観察に適したプレート等について意見交換を行った。
参加者のバックグラウンドや三次元培養の経験がかなり多様であった。この分野はまだ確立途中の技術であるためか、ベンダーに関してはユーザーのニーズ把握を目的に参加されている人が多かった。少しまとまりのないWSになってしまったが、開発する側と使用する側で意見交換ができたことは有意義であったと感じる。
【Track 8】分注装置と細胞播種
私達は、普段の細胞実験や評価試験で様々なタイプの分注装置を利用している。そこで、実際に細胞を用いた装置の使用感や細胞ハンドリングで発生する問題点などの情報共有と意見交換を行った。 本WSへの参加者は総勢33名、24名が製薬企業、6名がアカデミア、3名がメーカーとベンダーからの参加者であった
1. 話題提供―1 東京大学創薬機構 今村先生
分注装置を中心とした細胞分注についてタイプ別にその特性を説明があった。
- いくつかの装置を使用して細胞分注を実施した;装置使用感について
- 各種分注装置で細胞を分注したのち、顕微鏡で観察したレポートについて
- 24時間後の細胞の状態のレポートについて
分注装置の種類;独立シリンダータイプ/ペリスターポンプタイプ/バルブ(加圧)タイプ/バルブ(ダイアフラム;隔膜)タイプ/音波コントロールタイプなど
2. グループディスカッション―1
簡単な自己紹介と話題提供にあった装置関連についてアンケートに上げられた内容を中心に意見交換を実施した。
3. 話題提供―2 名古屋大学大学院 創薬科学研究科 加藤先生
加藤先生の研究室では細胞と分子と情報学、創薬の基礎研究と開発プロセス、サイエンスとテクノロジー、医療と産業、産官学など、多分野をつなぐための新しい実用化技術を研究している。特に細胞形態情報解析では、細胞を取り扱う各工程がいかにデータ解析に影響を与えるかの説明があり、細胞の正確なハンドリングの重要性が再認識された。また、細胞を分注した際に発生する細胞の移動について説明があり、シミュレーションソフトを用いてWell内細胞のばらつきなどの問題点について解説があった。
4. 各グループのまとめ
5グループから各グループで情報提供や情報共有できた内容について簡単にグループリーダーからへ発表された。装置に関するTipsや細胞を扱う上での問題や解決方法など参加者が経験した具体的な内容が報告された。
今回のWSではアカデミアの先生方の発表をもとに、参加者の皆さんでグループディスカッションを行い具体的な内容について情報共有する事を目的としました。話題は、分注装置の情報、細胞のハンドリングで発生する問題点などが中心となり、先生方からの貴重な情報を共有することが出来ました。更に、加藤先生によって、分注時の細胞の状態ついて384プレートにおけるシミュレーションを検討頂ける事になりました。 これからもWSに参加した皆さんが、活発に意見交換を行う事で得られた具体的な解決策などを自分たちのラボに持ち帰り、実際に試す事で得られた結果や新たに発生した問題点や疑問点などを共有して話し合える場を提供したいと感じました。
【Track 9】HT-ADMET
(協和発酵キリン 浅野目一機、田辺三菱製薬 鳥本奈緒)
1.アンケート集計結果の紹介(10分)
事前アンケート結果を共有。参加者は30名弱で、企業開発研究従事者が大半を占め、CRO、メーカー、アカデミアからの参加者は若干名であった。ADMEとToxを比較すると、ADME実務従事者が半数以上を占めた。
2.製薬企業におけるHT-ADME(40分)
協和発酵キリン(株)におけるHT-ADMEの取り組みについて紹介。特に代謝安定性や溶解性評価の目的や実施方法、MS測定条件の取得やその共有方法、データ共有における工夫などについて、質疑が活発に行われた。
3.Tox評価系について議論(30分)
Tox評価系について議論した。多くの企業で実施されている細胞毒性試験の細胞種は何が適切か、どの程度In silicoで置き換え可能か、等各社意見交換を行った。また、クライテリアの設定をどのようにすべきかについても議論した。
4.グループディスカッション(40分)
事前アンケートで希望の多かった内容についてグループディスカッションを行った。
下記4グループに分かれてディスカッションした。
【溶解性評価について】
創薬初期ステージにおける溶解性評価について議論した。評価するpH、人工腸液での評価、検量線のポイント数など、各企業において創薬初期で溶解性を評価する目的や求められているスループットが異なっていることから、対応はまちまちであった。中には高速分析システムを用いて評価するなどの工夫をしてスループットを向上させている会社もあった。
【DDI評価について】
ミクロソームのロット変更時の基準について議論。陽性対象を評価に入れる等の工夫が重要と考えられた。TDIパラメータ算出にあたり、希釈法と非希釈法のどちらの評価をDDI予測に使用すべきか等についても議論した。
【ADMET戦略、低分子以外の創薬に向けての取り組み;ADME】
創薬初期ステージで早期に取得する必要のあるADME評価系、ある程度有望化合物についてデータ取得することが望ましい評価系など、各社の考え方について、議論した。機器の保守やメンテナンスをどのように行うのが良いかも意見交換した。
【ADMET戦略、低分子以外の創薬に向けての取り組み;Tox】
費用対効果を考えた上で創薬初期ステージで早期に取得する必要のあるTox評価系は何か、どのタイミングでどの程度実施するべきなのか、得られた結果の判断基準等について議論した。また、新規評価系をスクリーニング部門で構築する際の、関連部署との協力体制の在り方などについても話し合った。
【Track 10】Biophysical 相互作用解析 議事録
ファシリテータより、ヒット・リード化合物を選抜する上でのSPRやITCの活用方法、位置づけに関する概要や、事前アンケート結果を説明したうえで、 「SPRやITCの長所・短所は何か。」「SPR、ITC解析を行う上で、それぞれ何を重要視すべきか、また何が課題なのか。」「ヒットバリデーション、ヒットtoリード、リードオプティマイゼーションにおいてSPR, ITCはどう役立てればよいのか」などの議題に分けて、アンケート内容を起点に意見交換・体験談を交えながら議論を交わした。またこれらの議論の過程でファシリテータからは、SPR:実例紹介を交えながら固定化方法の最適化検討における活性保持率確認の重要性、ITC:ΔHを指標とした化合物選抜における結合比(N)からの有効濃度評価の重要性について、技術解説を行った。主な議題と意見交換内容は以下の通り。
【SPR, ITCの概要:長所と短所】
Q. 低分子解析において、なぜSPR, ITCを導入したのか、しようとしたのか。
A. SPRは高感度に質量変化で検出できるという簡便性から。
A. ITCは導入すべきかどうかを本ワークショップで検討したいと考えている。
【SPRの特徴と実例】
Q. 市販のタンパク質を用いて評価を実施しているが、ロット間で結果が異なり、再現性がない。
A. 可能な限り市販品で試みることは避けたい。
Q. ポジコンがないため、固定したリガンドの状態(活性体かどうか)を判断できない。
A. 可能な限りバイオロジカルな結合分子を見つけてほしい。もしくは抗体やディスプレイなどにより人工分子を設計することも対処法の1つである。
Q. タグがついていないため、固定化方法がアミンカップリング以外にない。
A. 化学反応によるビオチン化修飾はいくつも実績があり、固定化後に解離もないため、試す価値があるのではないか。
【ITCの特徴と実例】
Q. ΔHの情報を基にしたヒットtoリードを行いたいが、溶解度に難があり測定できない。
A. DMSO濃度を変えて溶解度を高める、bufferや温度条件を変更して低濃度でも熱シグナルが観測され易いようにする、逆滴定(タンパク質を滴下)にして化合物をセル側に充填することで低濃度での測定を可能にする、などの対処法が考えられる。
Q. ヒットtoリードでITCを積極的に活用するためにはタンパク質量の確保が必要となるが、どのように社内でその重要性を訴えるか?
A. ヒットtoリードの初期段階でΔHに注目した化合物選抜を行うことにより、飛躍的な活性向上に繋がるような事例が出ると、その後は社内での協力が得られ易くなる。進行中のプロジェクトでよい事例に出会えない場合には、過去のプロジェクトで大きく活性向上を果たした出発化合物が優れた結合熱力学パラメータを有することを示すのも有効な手段と考えられる。
【Validation, Hit to Lead, OptimizationにおけるBiophysical解析について】
Q. SPRをヒットバリデーション、ヒットtoリード、そしてリードオプティマイゼーションの中で、どう活用しているのか
A.相互作用の種類がどの速度定数に寄与するのか不明瞭なため、あくまでの相互作用の質として把握することになるのではないか。
Q. SPRにおいてkoffはどう活用したらよいのか
A.重要な指標であるが、とらわれることが得策かどうか、根拠が乏しい。確かに生体内の滞在時間は長い方がよいが、ヒットバリデーション、ヒットtoリードにおいて、滞在時間をどこまで気にすべきか。
【次回以降の課題】
フェノタイプアッセイから始まったスクリーニングで選抜された化合物、標的蛋白質に結合しているかどうか不明瞭なままで選抜された化合物群に対しては、物理化学測定による評価のステップを間違えると、全く意味がないかもしれない。フェノタイプスクリーニングからの物理化学評価、合成展開における物理化学評価など、個々のスクリーニング工程において物理化学測定の導入が適切かどうかをもっと議論したい。
【Track 11】次世代の創薬支援システムを考える
日本たばこ産業株式会社 堀 浩一郎
協和発酵キリン株式会社 山田 祐資
帝人ファーマ株式会社 酒井 由里
26名の参加者と車座でちょうどいい広さで議論ができる人数となり、システム・データベース、ITツール、電子実験ノート(ELN)などについて議論・意見交換が盛り上がりました。
初めにラボコンサルテーション株式会社の島本哲男氏より「バイオELNは本当に要るの?」と題して、ELNの歴史・現状・メリット・問題点など幅広いポイントについて紹介していただきました。バイオ系のELNは今後導入が増えていく分野であり、参加者の興味・意識が高く、我々の予想よりQA・議論の時間が大きく延びてしまうほどでした。次回以降ではELNをトピックとしたWSを企画する必要を感じました。測定機器PCのLAN接続はバイオELN導入のポイントであり、セキュリティ上の問題や技術的な課題が多く、参加各社で同じような問題・悩みを抱えているようでした。
DB運用やシステム開発、メンテナンス負荷の問題については、その多くを研究員が直接担当しているケースが多く、一方で後進がうまく育っていない現状について意見交換がされました。データをちゃんと解析できて理解できて有効に活用できる人材をいかに育てていくべきか、というようなやや哲学的な方向に議論が進む場面もありました。
可視化ツールについては依然としてSpotfireがデファクトスタンダードである一方で、VortexやTableau、Insightへの関心も高く、ユーザの業務やスキルによってこれらのツールを使い分ける必要がありそうでした。
その他、統計・データ解析ツールについて議論がおよび、システム担当者のグチの言い合いになりかけながらも、いろいろ多くの問題について議論ができたと感じます。
全体として非常に広い話題について議論をしましたが、根底にある問題や悩みどころについては参加者でしっかり共有できたのではと感じます。また創薬を始めて間もない会社からの参加者からは、創薬システムでは今何がデファクトになっていて何が問題なのかを把握できてよかったという声も聞きました。今後もこの分野のWSを継続する必要を感じています。
【Track 12】スクリーニング戦略:今後のHTSの向かうべき方向は?
ファシリテーターからの「最近の製薬企業を取り巻く話題」と「新薬創製の現状と課題」に関する説明に続けて、WS参加者が5つのグループ(5~6名)に分かれて、HTSによる創薬のボトルネック解消をするために、自分が製薬企業の研究所長である想定して、今後どのように進めるべきかを討論し、その内容を発表する形で議論した。
昨年の同WSでは、とりあげたトピックスが多くて時間が足りなかったため、今回は十分な議論ができる配分を考え、アンケートを取りまとめた際に、以下の3つのトピックスに絞って意見交換を行った。グループはトピックスごとにメンバーを入れ替えて、WS参加者が多くの人と話せるように進行した。
主な意見は以下の通り。
【化合物ライブラリ 自前主義 or 社外資産の活用】
一律の方針にまとまったグループはなかったが、比較的自前のライブラリ拡大路線は否定的で、フォーカスしたライブラリを標的に応じてスクリーニングに供するという意見が多かった。また、自前拡大路線を補完する意味で、共同購入や他社とのライブラリ交換について、メリットがあれば積極的に進めたいという意見が多く、世界情勢もその方向性が主流である。現実的には、化合物保有数やスクリーニング数は自社組織の規模に依存し、スクリーニング戦略に沿って、柔軟に対応する事が肝要というのが実情である。
【ターゲットベース VS フェノタイプスクリーニング】
大半のグループの発表内容は、今後、フェノタイプスクリーニングを追求したいとの意見であった。但し、その成功確率をあげるためには、ターゲット同定の技術、キーとなる評価系の構築、ケミストの理解と協力が必須であるという点が共通した課題としてあげられた。グローバル大手もフェノタイプスクリーニングへのシフトが趨勢という事例紹介があった。
【HTSの将来、HTS戦略】
HTS戦略の方向性として、「経験重視vs新規性重視のポートフォリオ」を縦軸に、「効率で勝負vs目利きで勝負」を横軸にとった4つの戦略分類に対して、グループで意見交換を行った。4分類は、以下の通り、A:選び抜いたテーマに腰を据えて取り組むプロセス、B:自社を頭脳的機能に特化させ、アジアの国々のCROを駆使するプロセス、C:新規性の高い技術にじっくり自社でも取り組むが、同時にアライアンスをリスクヘッジとして標準的に活用、D:ざっくりと絞り込んだテーマに、高回転で一挙に進める。
B戦略を選択すると発表したグループはなく、AとCを選択するグループが半々であった。但し、いずれの戦略も一長一短があるので、どちらかに特化するのではなく、テーマのターゲットや疾患領域に応じて、選択する事になるのであろう。
【Track 13】産官学連携
ファシリテータより、国による欧米の創薬支援の現状と日本の取り組みを解説した。
事前に取ったアンケートでは、初期創薬において、プレコンペティティブな部分はあると考えている人は、90%以上であった。プレコンペティティブなステップとしては、創薬標的候補のリストの作成、創薬標的探索、化合物ライブラリー、HTS系構築、実施、Hit to Lead、新規技術の共同開発、共同化などが考えられた。
アンケート結果をもとに、産官学連携の課題を抽出し、解決するためのアイディアなどの意見交換を、4グループに分かれて行った。課題とした4つの項目を、各グループに1題ずつ題材としてわけて、ディスカッションを行い、各グループの討議内容のまとめを代表者が発表する形式でおこなった。
【プレコンペティティブな枠組みについて】
1. 次世代ライブラリー
国内の各種ライブラリーや連携施策の現状の把握を行った。東大、AMEDおよび製薬協によるライブライリー活用の仕組みが動いているが、企業がアクセスしやすいものは少ない。現在の運用の成果を見る必要があるが、ライブラリーセンターといったような大きな枠組みで、より自由に使用できるライブラリー作成に向けた連携が必要であり、その方向に進むのではないかとの意見が出た。
2. 技術や機能の共有化
大学にしかない機器を使用することはあるが、学-産は遠慮があり、官の橋渡しが必要であろう。海外では、企業とアカデミアの人材交流が盛んであるので、日本でもマインドセットが必要になってくる。創薬のためのプラットフォーム技術を、産官共同で開発する仕組みも重要である。プレコンペティティブ領域で共有化できる機能を洗い出して、センター化するなども今後必要になってくるのではないか。
【産学連携の在り方】
3. 研究連携・役割分担
『学』:新しい生命現象から、いかに魅力的な(臨床ニーズに応える)創薬標的を見いだせるかが大事である。希少疾患に関しては、産は取り組みづらい面があるのでアカデミアが主体となるのが良いと思う。臨床ニーズに応える創薬標的を見出すには、『学』-『学』の連携も増やす必要があるのではないか(臨床の研究室と組むなど)。
『産』:プレコンペティティブな部分を協働し、最適化部分は独自性をもって進める。
『官』:シーズの発掘とパートナー企業との橋渡し
『産』『官』『学』がそれぞれの分野の役割分担(強み)を明確にし、それぞれの機能を強化するとともにその上で緊密な連携を図ることが大事と考える(強みがなければ連携も難しい)。
4.知財、契約、利益配分の考え方
『産』-『学』:お互いの価値基準が異なるため折り合いが難しい。連携の際は、お互いの判断基準を確認し、個々の段階で細かいマイルストンを最初につめておくことが必要。ビジネスモデルがないため、対話を積み、成功体験を積む努力をする。
『学』には、論文・学会発表をゴールとしてしまう傾向がまだ強い。知財戦略もまだ弱い(排他性が低く優先権活用戦略が立てられない特許も存在)。適切なタイミングで(できれば早めに)お互いの状況を理解したうえで『学』と『産』とをつなげるための橋渡し機能や人材が必要であるが、日本では不足している。
海外では、企業とアカデミア間の人的交流があり、お互いの状況を理解したコーディネート役の人材も出やすい。 プレコンペティティブな部分は標準化していく。