第5回スクリーニング学研究会 Workshop まとめ

【Track 1】HCS Advanced

参加者が8名(+ベンダーの方3名)であったため、自己紹介の時間を長めにとった。各社が使用している機器、HCSにどのような形で携わっているのかなどを説明していただいた後、事前アンケートの結果を簡単に振り返った。続いて、議題を①機器関連②各社の戦略③実運用での課題とトラブルシューティング、として議論を行った。主な意見は以下の通り。

【機器関連】

最近購入した機器や現在所有している機器の情報共有が行われた。新製品の機種は前機種からのアップグレード内容や使用感、メーカー対応状況などが報告され、導入した経緯なども紹介いただいた。ハード面では画像の鮮明さが重視される一方で、解析を実施した時のS/BやZ’値がどのように算出されるかにも重きが置かれていた。イメージングを多用している(これから多用したいと考えている)企業ではScreeningの高速化(スタッカーなどのオプション)とミニチュア化(~1536wellまで)に対応できる機種を求めており、画像処理の速度に加えて解析結果の保存方法、解析の多様性、サポートの充実度など新たな機器を導入する時にはトータルとして機種を評価していた。

【各社の戦略】

HCSを利用しているテーマの割合や、アッセイ実施プレートフォーマット、HCS系を採用する判断基準などについて話し合われた。ダイナミックな細胞内シグナルを画像検出できることこそHCSの醍醐味であるという認識は共通しているが各社の創薬戦略に依存するためHCSに求めるレベルは様々であった。イメージングでしか評価できないアッセイ系でない限り他の細胞アッセイ系で高速に処理すれば良いという考え方と、たとえ一次スクリーニングにおいてスループットが低くなったとしても独自性の高いイメージングで評価することにより競合との差別化を図り化合物の価値を高められるという考え方があった。3D評価、Live cell評価、Phenotypic screeningなど、各社特徴ある戦略について情報交換が行われた。

【実運用での課題とトラブルシューティング】

アッセイ関連ではwasherについて意見が出た。解析関係は最も長い時間議論が行われた。画像解析は各社苦労されていて、測定機器メーカー付属の解析ソフトの使用方法や運用の仕方について話し合われた。複数の異機種を同一のアッセイに使用する時は、データのブリッジングが問題となっていた。大量の画像データの保存方法、保存期間についても話し合われた。HCSの膨大なデータを整備するには、IT部門の力が必須であり、各社試行錯誤を繰り返している。今後データ処理に長けた企業の参入があっても良いと考えられる。

【所感および次回以降の課題】

今回は参加人数が10名以下で参加者のターゲットも絞っていたことから、全員が意見を言い合える環境ができたいたように思われる。今後も各参加者のニーズに合わせて少人数でのWSが望まれる。

 

【Track 2】HCS Basic

ファシリテーターよりWorkshop議論の目的・社外の状況共有に加えて、事前アンケートの説明があった。まず、参加者全員から自己紹介と感じていることやWorkshopに期待することについて発言していただいた。その後、参加者から指摘された点と事前アンケートで提起された点を基に以下の議論が行われた。

【スクリーニング手法】

標的を定めないphenotype screeningと特定の標的に対するtargeted screeningには、それぞれ長所・短所があり、状況に応じて使い分ける・組み合わせることが重要になる。難しい化合物探索の場合が増えているため、ひとつの手法を「玉手箱(魔法)」ではないと理解して、応用範囲と限界を意識した対応が大切と思う。

【イメージングに使用する抗体の選定】

期待しているimaging assay系を確立するために、一次抗体の選定は重要。論文報告が再現する場合は良いが、良い抗体が見つからない場合には社内外に相談することが良い。染色用の二次抗体は購入している場合が多く、自作している例はほとんど無い。

【画像dataの解析・data互換性の問題】

イメージングdataの解析では、頻用される(定型的に近いもの)は提供されているが、それ以外の指標を数値化したい場合に課題がある。機器メーカーのサポートを最大限活用していく。機器メーカー間での画像data互換性が低いことは問題。各企業ごとの依頼ではなくこのような企業間での合意としてdata互換性の手段について機器メーカーに働きかけていく方策もある。

【細胞毒性作用などを持つhit化合物の見分け方】

細胞毒性など化合物の非特異的な作用などと特異的なphenotype変化の区別がつきにくいことがある。このような場合、imaging dataに加えて、細胞内signalingなどの知見や類似の論文報告などからのcounter assayなどimaging以外の試みと組み合わせることが有効。

【所感および次回以降の課題】

参加者は23名でちょうど部屋が一杯になる程度であった。参加者は探索・毒性・技術開発など多様な専門を持っていたため、普段できない異分野間での議論ができたように感じる。バイオロジーの知見をどこまでイメージングに落とし込めるかを考える必要があると感じた。

 

【Track 3】Cell-based Basic

参加者 約40名

 先ずは、事前アンケートの集計結果を皆さんに提示。アンケートは、主に、参加者の細胞アッセイの経験と現在抱えている問題を確認させていただく内容でした。アンケートの集計結果から、1. 初級-基礎-(前半のみ)、2. プレートハンドリング、3. データハンドリング/QC、4. 細胞調製、5. オートメーション(後半のみ)の5つのトピックを選び、少人数のグループに分かれて前半・後半それぞれ約30分間づつ、ラウンドテーブルディスカッションを行っていただきました。細胞アッセイを経験する中で、①現在抱えている問題、②うまくいった工夫、③使ってよかった試薬・器具・装置などについて情報共有を行いました。

 その後、ディスカッションした内容や特に印象に残った話題を各グループからご発表いただき、参加者全員で討論しました。主な話題として、「凍結細胞」「大量培養方法とバッチ管理」「プレート内・プレート間バラツキ」「機器を使用した細胞の均一な分注やプレート洗浄」などが議論されました。様々なアイデアが参加者から提示され、活発な意見交換がなされました。

 参加者が今年度は約40名程度に増え、昨年度の同ワークショップに比べ、参加者のスキルがかなりレベルアップしていたことから、より踏み込んだ議論していただくようにトピックを分けて設定しました。積極的な発言の多かったグループディスカッションに時間をとったため、総括の時間を十分に取ることができませんでしたが、共通の問題を共有化し、議論し、解決していく中で、これからも各種セミナーや学会などで交流できる『つながり』を形成いただいたのであれば、幸いです。

 

【Track 4】化合物管理 Advanced

化合物管理Advanced WSには一般の方16名、ベンダー様2名の計18名の方にご参加いただいた。前半は、事前アンケートを基に、参加者の興味があるトピックを参考にして、3グループに分かれてグループ討議を行い、後半はグループ討議で解決できなかったトピックについて全員参加による討議を行った。討議の中心となったトピックは、「化合物一元管理」、「法規制対応」、「QAQC」、「非接触微量分注装置の運用」「ライブラリの更新」に関する課題点であり、概要を以下にまとめる。

化合物一元管理、法規制対応

化合物一元管理とユーザーの利便性は、相反する面も存在するが、法規制、契約遵守の観点から、化合物一元管理は進めていくべきものというのが各社の共通認識であった。実際の運用を進めるうえで、プロジェクト化合物のライブラリ投入タイミング、新規に法規制対象となった化合物の対応方法、出庫の際に承認が必要な依頼の承認方法やシステム化、等の課題について、情報交換を行った。

QAQC

品質チェックのタイミング、原末、溶液の寿命、等が話題となった。品質チェックのタイミングは、原末サンプルは入庫の際に、溶液サンプルはヒットの際に行っているところが多かった。非接触微量分注装置にはDMSOの含水率をauditする機能があるので、その機能を活用して、ソースプレート使い回しによる含水の増加をaudit機能でモニタリングしているところもあった。また、重要度は理解しているが、リソース不足で対応できていないところもあった。

非接触微量分注装置の運用

非接触微量分注装置のソースプレートは、これまでのノウハウの蓄積がある接触型高容量分注装置のソースプレートの管理法とは違った管理が必要となる。ソースのCOCプレートは、3~4枚のコピーを作成し、各コピーを1年~2年使用している、ドライブース内で、分注直前にピールし、分注後すぐにシールをする運用にしている、析出防止のために、DMSO蒸気飽和環境かでの脱水や、Covarisによる再溶解を行っている、1536COCプレートは、エッジを除いて384COCプレートほど吸湿は速くない、等の情報共有を行った。

ライブラリ更新

ライブラリ更新の基準等が話題となった。10年程度使用しても、分解による品質低下は意外と認められないという知見や、HTSの目的に応じたサブセット作成、アッセイ系の妥当性を確認するためのダイバースセット作成例等が紹介された。

今回のワークショップは、110分の時間があったにもかかわらず、討議のトピックが多く、各トピックについて十分な討議ができなかったことについてお詫び申し上げます。今回、本ワークショップにご参加いただいた方で、ワークショップメモの入手をご希望される方は、事務局までご請求ください。

 

【Track 5】化合物管理 Basic

事前に行ったアンケートを元に共通性の高い課題を抽出し、それに適した話題を2演題提供しました。その後、参加者全員の自己紹介とこの会で知りたいこと、解決したいこと等を述べていただき、主に以下の二件に関してフリーディスカッションを進めました。

1) 化合物管理自動化システムの新規導入、更新

話題提供として杏林製薬における自動倉庫導入の経緯に関してお話しました。
新しい設備の導入に際して事前に確認しておくべきポイントとしては、各現場で将来的に要求されるであろうサンプルの取り扱いのスピード、量、頻度、提供形態等をあらかじめ把握しておくことが重要であるという意見をいただきました。また、特に複雑な機器においては早期の稼働開始と安定性を期待するのであれば、サポート体制がしっかりとしているメーカーを選ぶことが重要であるという認識が得られました。
比較的小規模なラボにおいては、分注機や小規模ストレージ等を段階的にそろえて行く方が進めやすいとは思いますが、化合物情報(残量、保管場所、法規制等)システムの整備も重要です。
新規設備導入予算をいかにして獲得するか、と言うのはどこにでも共通する課題のようですが、やはり、導入した場合のメリット、導入しなかった場合のデメリットを出来るだけ具体的に例を挙げて周囲を説得する、と言うのがありきたりではありますが、重要だと思われます。

2) 不溶性、難溶性化合物の取り扱い

話題提供として杏林製薬におけるアコースティック可溶化装置の検討に関してお話しました。
この問題は永遠の課題として存在していますが、つまるところ、「溶けない物は何をしても溶けない」、と言うことになります。可溶化装置はあくまでも溶解にかかる時間を短縮しているに過ぎないので過信は禁物です。調製濃度を下げても解けないものは存在するので、結局溶ける溶け無いをしっかりと把握してそれに応じた取り扱いをするというのが現状では取り得る最善の方法かと思われます。ただ、最近は化合物を合成する前に事前に物理的パラメーター等を考慮することも増え、溶解性の悪い物は減る傾向にあるという意見もありました。

上記の話題に絞った為、比較的深く多様な情報が得られ、有意義なディスカッションが出来たと思います。その一方、参加者それぞれが抱えるその他の様々な問題、疑問に対しては時間の都合で討議することができなかったのが残念です。ワークショップ以外の場でもこの様な議論を継続できるような場があれば、と思います。

 

【Track 6】ADMET General

1.データ処理・転送の効率化と情報共有・活用

初めにHT-ADME評価を効率良く行うための取り組みについて、中外医科学研究所での事例紹介を行い、その後議論を行った。評価依頼から報告までを効率化するwebシステムの紹介と共に、LC/MSデータ解析を効率化するためにライフィクス社と共同開発した新ソフトウェアが紹介された。ADME評価では評価化合物そのものが測定対象であるために、化合物の数だけLC/MSの解析メソッドを準備し、さらにそのメソッドにより妥当なクロマトグラム解析処理がされているかを一つ一つ確認する必要がある。新ソフトウェアはこれに対処し、スコア化・ビジュアル化によって、大幅な作業効率化を達成し、スループット向上が可能となった。この取り組みに対しての質疑や意見交換を行い、また他にどのような効率化の取り組みが進められているかについて、状況を共有した。また、蓄えたADMEデータの使い道について議論された。予測モデル構築に利用するなどの可能性があるが、統一性やデータ形式などの課題がある。社内レベルの利用はあるものの、アカデミアから望まれるような一般公開には至っていない。また、派生の話題として、どの位の評価項目までデータベースとして共有しているのか状況を共有した。

2.産官学民の協力、連携の在り方

HT-ADMEの分野において協力できることなどを探る上で、アカデミア創薬の現状とADME評価の課題について北海道大学創薬研究教育センター堺谷様より、紹介を頂いた。アカデミア創薬も基本的には企業と同じ流れであるが、予算の制限があること、ADMET評価などLead Optimization(LO)を進める機能がアカデミアでは弱いことが課題である。ヒットを得るまでの基盤は完成し、具体的なテーマが進みだしており、創薬全体の理解度の向上を図るための教育も進みつつある。「ADMET評価は外部に委託することを考えている。」といったような現状が示された。産学の協力を考えていく上では、アカデミアの創薬への理解や経験(LOあたりの感覚、ADMETデータの理解)を製薬企業に近付けていくことは重要であり、そのためにどうしたらよいかなどを意見交換した。

3.事前アンケートに基づいた意見交換

製薬企業でのHT-ADME戦略に関して議論を行った。どの位の量と質を追求するのか、HT-ADMEの主目的は何か、費用対効果が良い評価はあるかなどを議論した。予算等が厳しくなる中で、評価の絞り込みや量より質を目指す傾向にある。また、複数のヒットがある中から有望な候補を選定するための初期ADMEプロファイリング的な評価は重要である。その中でも企業のリソースによって、疾患分野や化合物の構造上の特長などにも依存して、どの程度の評価を行うかが決まってくる。簡便で評価しやすいアッセイと煩雑でコストはかかるものの最終的に費用対効果が大きいので早めにやっておくべきアッセイも存在する。
また、HT-ADME担当部署がどの組織にあるとどういうメリットやデメリットがあるのかなども議論した。

 

【Track 7】iPS

 大日本住友製薬株式会社研究本部 先端創薬研究所池田篤史さんから「大日本住友製薬におけるiPS細胞の創薬応用」という内容で大日本住友製薬でのiPS細胞を用いた創薬に関する取り組みについて紹介があった。
 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から、CiRAでの創薬関連の進展と参加者のアンケートの集計の紹介があった。
 6人程度のグループに分かれて、「iPS細胞を創薬に使いたい、そこにあるバリアとその解消策は?」というテーマを中心にフリーディスカッションをした。

1) 大日本住友製薬では、治療薬のない疾患分野を1つの研究領域としている。この領域方針のもと、iPS細胞を創薬ツールとして薬効評価等に利用するための基盤整備を推進している。具体的には、病態に関連する表現型や創薬標的の探索、治療薬候補物質のスクリーニング等への疾患iPS細胞の活用を目指している。疾患iPS細胞を用いた共同研究や、疾患iPS細胞を創薬研究に用いることのメリットや課題についても紹介があった。

疾患iPS細胞を使うメリット
通常入手が難しい細胞を大量に得ることができる
臨床症状・病態と、疾患の原因(遺伝背景)の関連づけが可能
動物モデルが乏しい疾患に対する新たな疾患モデルとして利用できる
発症前の段階をin vitroで再現できる(バイオマーカー探索への応用など)

疾患iPS細胞を用いる創薬研究の課題
iPS細胞の培養に手間がかかる、効率が低い、時間がかかる
目的とする細胞への分化誘導、機能的に成熟した細胞を得るのが難しい
分化を確認するためのマーカーがない場合がある
株・ドナーごとにばらつきがある ⇒ ゲノム編集による変異修復
ライセンス・特許面のケアが煩雑

2) CiRA

2-1Feeder-free, defined mediumの系を確立した。
2-2スタチンを軟骨形成不全症へDrug repurposing できる結果を報告し
2-3TALENとCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集の主な手法として多く使われている。

3)グループディスカッションの総括  創薬に利用する上での課題が指摘された。

■ 論文の分化方法が再現できない、バラつきがある。容易に使える状態ではない
■ 安全性評価に関しては、市販の心、肝で質がよくなったが、会社間で品質に差がある。
■ コストは問題あり。半分だときつい?
■ 臨床でドロップした薬について、副作用が出た患者のiPSを使って、メカニズム解析を行えるのでは?

 

【Track 8】 Automation Advanced

-自動化システム-
 “装置担当者が実際に抱える自動化の問題について情報を共有し解決策を議論する。”

 本WSへの参加者は28名、参加者の9割が製薬会社研究員となった。
初めに前回のオートメーション基礎で話された内容について簡単に紹介、その後、本WSに参加されたメンバーからのアンケート結果を報告し、参加者の簡単な自己紹介を行い、討議に入った。
今回、参加者で討議する内容について3つの項目を中心に意見交換を行った。

 ・いかに  装置を稼働させるか・・・導入前と導入後の課題と対応

①    購入前の準備;デモにおける情報収集の限界

機器単独でのデモは可能だが、スケジューラーと3rdパーティのドライバ等のコントロール、データのやりとり、スケジューリングやタスク間のTiming等ソフトにまつわる部分での確認が難しい。

②    専用機と汎用機;両装置の考え方・・・メーカーとユーザーの視点

複雑な工程の自動化と単純な繰り返し作業での使用方法は異なるのではないか。以前と比べると、スケジューラーの能力や安定性も進化しており、比較的汎用機として扱いやすいシステムもある。他社の装置などが導入された場合、統括する担当者は、コントロールソフト、プログラムを有するメーカーが基本的に中心となり推進する必要がある。

③    装置の導入後の維持;メーカーの保守について

最近の傾向は保守に入らない、もしくは継続しないケースが増えてきている。これは経費削減もあるが、実際の修理状況の金額を鑑みた場合、保守契約が割高な場合が多いためである。保守契約はトラブルを回避する保全や高額修理に対する保険であるというメーカーの考え方があるが、今後もっといろいろな内容の保守プランや、アプリケーションサポート等、別の付加価値をつけたサポート商品を提案しなければ、研究者の意図とは別に保守に入らないケースが増える事が予測できる。

※ その他;

メーカーは装置の確実な稼働を担当、ユーザーはプロトコールの工程の自動化(装置のプログラム化)を担当、まずはそれぞれの担当を確実にこなす事が目的を達成する為の大きな要因である。パワーユーザー/専属のオペレータ(担当者)がメソッドを組み、稼動させているユーザーの出席率が前回のWSの時より高いと感じた。

今後も、本WSにおいては、メーカーおよびユーザーが同席し、実際に問題となる具体的な問題点や課題そして解決策について更に活発な議論が可能な環境を提供したい。

 

【Track 9】 Hit to Lead

前回、参加者が50名にもなり、分科会全体で議論した際にほとんど発言できない人や交流を持つことができない人が多かった反省を踏まえ、今回は少人数によるグループディスカッションを導入しました。

ディスカッションのネタ提供という位置づけで、私からヒット・リード化合物の定義についてのアンケート結果を紹介しました。ヒットは主活性だけで判断するケースからReal BinderやLEでの考察が入ることが多いケース、vivoでの薬効を求めるものまでありました。またADMETパラメータをヒット化合物選抜にどこまで考慮する必要があるのか議論になりました。リード化合物については特許性、易合成性などMed. Chemistが関与する項目が多くなることが特徴となっていました。

第一三共の永田氏から「フラットランドも悪くない!?リード化合物に求めるプロファイル」と題して、昨今のリード化合物の定義に関する論文の紹介や演者のMed. Chemistとして視点からHit To LeadのプロセスやLead Optimizationに関する意見を紹介してもらった。

その後、6~7人のグループに分かれ、ヒット・リードの定義や成功確率を高めるための施策、ADMETプロフィールの扱い、LE/LLEの考慮などについてグループディスカッションを行いました。予想通り、各社でさまざまな取り組みをしており、ここでは個々に列記はできません。Real Binderをどこまで保証するのか、フェノタイプスクリーニングでの対応を今後どうしていくのかが議論になったグループが多かったように思います。フェノタイプスクリーニングでは、Chemist側は少しでも早期にターゲットを明らかにしてTarget Orientedな進め方をしたいものの、HTS・薬理側は活性を上げてからターゲット同定作業に入りたいと考えており、薬理・合成の間でまだまだ溝があり、今後事例が増えてくることで分科会の一つのトピックになるものと感じました。

 

【Track 10】 スクリーニング戦略

ファシリテータより製薬企業の現状と課題を説明したうえで、First in Classを狙うために必須となるHTSを今後どのように進めるべきか、参加者全員が一つの製薬企業に所属していると仮定して、6つのグループに分かれて討論し、その内容を発表する形で議論した。主な意見は以下の通り。

【化合物ライブラリの強化の方針】

自前のライブラリは独自性が高いので貴重な財産であるが、多様性を考慮した場合、CROも含めた他機関のライブラリの併用も考えたい。

【HTSの自動化と高密度化、ターゲットベースVS フェノタイプスクリーニング】

企業、アカデミアを問わず大半の機関が384穴フォーマットでスクリーニングを現状行っている。自動化の検討に時間がかかり、コスト高になることもあるため、自動化にはこだわらない。アカデミアはナイーブな細胞を用いたフェノタイプスクリーニングが多い。フェノタイプスクリーニングは実施機関も増えているもののターゲット同定がボトルネックになっている。ターゲットを同定しないと化学が最適化研究を実施したがらない。

【化学グループやITの関与】

企業では化学グループが化合物ライブラリの構築やスクリーニング戦略に関与し、ケモインフォマティクスやADMETは早い段階で化合物のクラスタリングや絞り込みに活用されている。一方、アカデミアでは、化学の関与は、組織上、ヒット同定後にならざるを得ない。

【スクリーニング戦略】

産学連携では、双方の理解不足のために進まないことが多い。お互い専門の部署が必要なのではないか。CROを効果的に利用するためには、自社の強みを生かす差別化戦略が必要。

【次回以降の課題】

戦略を練るうえで、多くのポイントを議論することは重要であるが、時間がどうしても足らず最後のトピックスには時間がかけられなかった。今後の課題として、アンケート依頼時にテーマの絞込みを行い十分な議論ができる配分を考えたい。

 

【Track 11】 物理化学測定

ファシリテータより、ヒット化合物を選抜する上での物理化学測定の位置づけに関する概要や、事前アンケート結果を説明したうえで、
「なぜ物理化学的性質を指標とするのか。」「どのようなデータ・パラメータを基準に評価したらよいのか。」など、主に5つの議題に分けて、アンケート内容を起点に意見交換・体験談を交えながら議論を交わした。主な議題と意見は以下の通り。

【スクリーニングにおける物理化学測定の位置づけ】

1次スクリーニング、カウンターアッセイ、ヒットバリデーション、化合物伸長/SAR(メドケム)など、どの段階で物理化学測定を行っていくのがよいのか。

【各物理化学測定の特色】

・各手法には特有の性質があり万能な手法は存在しないため、各特性に応じた使い分けが要求される。多くのケースではスループットやタンパク消費量といった制限事項に基づき取捨選択が行われている。
・各手法の結果が一致しないケースがある。逆に複数の検出手法の重なりを取ることでスクリーニングの効率を高める試みが行われることもある。

【SPR, ITC, DSF, NMRについて】

<SPR>
・一定のスループットを有する点、タンパク消費量が少ない点から、比較的アーリーなステージでの絞り込みに使用されることが多い。
・(特にコントロール化合物が無いケースにおける)固相化操作後の活性確認、非特異的挙動の取り扱いに問題を抱えていることが共通認識として挙げられた。

<ITC>
・化合物を高濃度で調製しなければならないため、溶解性の低いものについては、DMSO濃度、加熱、界面活性剤などを駆使して、可溶化を試みる。
・低分子化合物に関するパラメータ(指標)が不足している。

<DSF>
・蛍光のバックグラウンドが高い場合は、むしろ界面活性剤は避ける。他には界面活性剤の影響を受けにくい蛍光色素を用いるとよいかも。
・負のΔTmをヒットとするか否か。明確に正にシフトする化合物が得られない場合はあり。また濃度依存性をチェックし、化合物の濃度変化に伴いΔTmの変化の推移を観察する。

<NMR>
・STD・HSQCといった各種手法の使い分け、化合物の優先順位づけに使える定量性のあるデータ取得についての要望が多い。

【なぜ物理化学測定を行うのか】

・メドケムのステップまで上がってきたヒット化合物とその類縁体について、SPRやITCを実施する際に、どのような指標にて、シロ・クロを付けるのか悩ましい。
・標的蛋白質への結合評価を行わずにヒットとして選抜され、かつメドケムの入った化合物群での物理化学測定を、どう扱ったらよいのか。

【難易度の高い標的タンパク質に対する物理学測定の選択】

・膜タンパク質を標的とした測定についてのニーズが高いが実用段階に達しているとはいえない。GPCRだけではなくチャネルの需要もある。プロテインサイエンスの技術的進展も大きく寄与するであろう。

【次回以降の課題】

・物理化学測定を行うためには、予め、物理化学測定を導入するステップを想定したスクリーニングのストラテジーを設計しなければならないのではないか。例えば、フェノタイプアッセイやバイオケミカルアッセイから始まったスクリーニングで選抜された化合物、標的蛋白質に結合しているかどうか不明瞭なままで選抜された化合物群に対しては、物理化学測定による評価のステップを間違えると、全く意味がないかもしれない。

・創薬標的に対する低分子獲得の難度が高まり質の高いヒットを得にくくなっている現在、ケミスト・バイオロジストの物理化学測定への期待とニーズが高まりつつあることを感じた。一方で物理化学測定によるスクリーニングフローへのアプローチの方法論は百家争鳴とも言える状況で必ずしも確立されているとは言えない。今後はこうした手法の位置づけに関する議論から、より実戦的な議論に入っていく場を提供する必要性を感じている。

 

【Track 12】 DB解析

 スクリーニングデータ解析-データマイニングによる情報の活用-

・本ワークショップにはファシリテーターを含めて20名の参加がありました。全体討論を行うのにほどよい人数で、多くの方に活発に議論していただけました。

・セッションは参加者全員の自己紹介から始めました。ライブラリーデザイン、化合物管理、DB構築・管理、データ解析など、多くの方が複数の業務を担当されており、所属もメドケム、計算化学、HTS、ADMEなど幅広いことがわかりました。データマイニングはいろいろな側面から行うことが想定されますが、参加者構成からもそれが窺えました。

・ファシリテーターよりスクリーニングデータ解析に対して参加者が持っているイメージを確認した後、最近のトピックスについて紹介させていただきました。多くの方が、複数のスクリーニング系のHTSデータ+サンプル情報(必要に応じて社外データも)を使用した解析をイメージして本ワークショップに参加されており、ファシリテーターの想定と合致していました。

・フリークエントヒッター(FH)については、ライブラリー見直しのタイミングで排除するべきといった意見が多く出ました。「ヒットフラグ」をDBに入れているところは少なく、マイニングの際には3σなどを基準にヒット判定するしかないケースもあるようです。構造を基準にしてFHを排除する、アッセイ担当者によるフラグ立てやSPR, ITCなどでFHを先に進めないといった工夫も紹介されました。しかし、そもそもFHか否かの判断基準が明確でないこともあり、FHについては経験豊富な方からコメントしていただくといった対処をされているところもありました。また、FHの多くは高次評価でドロップするため、結果的にはあまり影響はないといった意見も出ました。

・FHの逆(どのスクリーニング系にもヒットしないもの)は、HTSでのヒット率は1%程度であり有意にヒット率の低い化合物の見極めが困難だとの意見が複数あがりました。FHの逆について解析を試みている参加者の方は、低ヒット率となる記述子の傾向をつかめないか検討しているとのことでした。FHと併せて構造分布を確認しているところもあるようですが、ライブラリーからの排除はしていないようです。

・化合物情報、アッセイデータはDB化されているところが殆どでした。また、アッセイサマリー、アッセイ条件、検出系、ターゲットクラスなどの情報をマイニングに使用しやすいようにシステム化しているところもあるようでした。完成度の異なるアッセイデータを同時に扱うことも必要になりますが、完成度をランク付けして併用、完成度の高いデータセットのみ扱う、完成度の低いアッセイ系は構築しないなど、様々な取り組みが紹介されました。アッセイデータに関しては、クレンジングされたもののみをデータ登録部門で登録する取り組みを行っていたところもありました。また、アッセイデータと併せてサンプル純度情報を活用することも多いため、システム的に容易に純度情報を取得できるようにしているところも多いようでした。

・データマイニングを進める際には専門分野の知識だけでなくIT知識も必要になることから、後継者が育ちにくいとの意見に対して、参加者の多くが同意していました。知識面の課題だけでなく、所属を含めた立ち位置、成果の判断と周囲の理解などにも課題があることが、事前アンケートからも浮き彫りになっていました。今回は具体的な改善案まで議論が至りませんでしたが、担当者が置かれている環境、そして後継者育成といった観点から、効果的な取り組みが出来るよう進んでいくと良いと思います。

・全体的に、楽しい雰囲気のなかで非常に活発に意見交換をしていただけたように感じます。参加者の皆様には事前アンケート、議論への参加、懇親会での情報交換などにご協力いただき感謝しております。データマイニングと一口に言っても議論の切り口が多くあることから、今回議論できなかった部分も含めて今後も議論を進めていければと思います。

 

【Track 13】 産官学連携

ファシリテータより、産官学連携の現状を説明したうえで、事前に取ったアンケートをもとにして、産官学連携にどのような課題があるのか、どのような進め方なら有意義であるのか、課題の抽出、解決するためのアイディアなどの意見交換を通じて、今後の活動のヒントとなるように、話し合いを進めた。

【企業として、シーズとしての理想は何か】

標的のbiologyがしっかりしていること、患者のsampleの病態による変動など活性と病態が結びついていることであった。公募におけるアカデミアからのシーズは、研究段階の偏りが大きいために、なかなか着手しにくい状況ではある。

【オープンイノベーションサイトへのアクセスについて】

アカデミアからは、企業が何を求めているのかが分かりづらいこと、募集は、できれば通年であったほうがよく、窓口がわかりやすいとよいとの意見が出た。解決するために、できれば、企業ごとに個別にアクセスするのは大変であるので、入り口を一つにして、ニーズに合った企業にアクセスできるとよいとの意見があった。
これに対しては、企業側からは、各アカデミアでの説明会を根気強くおこない、できるだけ足で稼ぐようにして努力はしているとのことであった。
アカデミアからの発信の仕方、企業側の情報取得の工夫が必要と考えられた。

【企業とアカデミアが実際に協働する段階に必要なことは何か】

最終的には信頼関係が重要であり、時には、契約でしばることも必要であるとの意見がでた。

【その他意見】

アカデミアでスクリーニングをする工数がない場合に、スクリーニングをするための人材派遣などの仕組みができるとありがたいという意見があった。
一方で、スクリーニングは、非常に奥が深く、だれでもやれば同じ結果が出るわけではなく、「スクリーニング学」の研究者、技術者の育成に最も力を入れているという発言もあった。人材の確保については、産学とも個別に取り組んでいるが、将来の人材を育てることが重要になると考えられた。
海外では、臨床を知っているドクターがベンチャーを立ち上げている。しかしながら、日本の先生はそこまでビジネスとしてできてはいない。世界第3位の新薬創出国でありながら、米国に比べ外部シーズを取り込んだ医薬品開発が少ないのは、そのためではないか。
海外の大手製薬会社が、東大、京大と包括提携を始めたことを考えると、日本の企業もアカデミアとの連携を強化する工夫を早い段階ですべきであろう。
官の参加者が少なかったため、官に求められていることや意見をいただくことが難しかったが、「アカデミアの基礎研究力を創薬シーズに生かし、実用化していく必要がある」ということで、政府の健康・医療戦略推進本部の計画のもと、医療分野の研究開発予算を集約し、基礎から実用化まで切れ目なく支援するAMEDが来年3月に発足することが、情報共有された。