光応答性基材に対するレーザー照射とディープラーニングを組み合わせた高速自動ヒトiPS細胞純化システム

要旨

再生医療、創薬、基礎研究それぞれにおいて、
高い純度を保った特定の細胞種を大量かつ自動的に製造することへのニーズが急速に高まっている。
接着細胞の純化方法として、従来のFACSや遠心分離では一度解離、浮遊させる作業が必要であったが、細胞の収量や状態に悪影響を与える。
致死性の高エネルギーレーザーの照射による純化技術が先行研究で報告されているが、処理効率などの課題により普及していない。
私たちの研究グループでは、光応答性基材上で培養された培養細胞を位相差顕微鏡下でモニタリングしながら、オンデマンドかつ自動的にレーザー照射し、局所的に細胞を致死除去する技術を開発した。
この方式では、光応答性ポリマーに対し、直接的には致死性のない連続波可視レーザー光を照射し、光応答性基材表面での効率的な光熱変換により、最大2,000 mm/sの走査速度で、単層接着培養細胞を25 µm程度の領域に限局して致死できる。
※光応答性ポリマーを塗工した培養容器に、ECM(iMatrix-511)を通常と同様の方法でコーティングすることで培養を行う。接着細胞であればiPS細胞に限らず細胞致死処理を行うことができる。

この光応答性基材培養ディッシュ全体を格子状にレーザー切断し、解離させた細胞塊を植え継ぐ方法で10継代の長期培養を経たヒトiPS細胞でも、正常核型、自己複製、多能性を維持していた。
また、突発的に生じた分化細胞と未分化IPS細胞を判別させるプログラムをディープラーニングにより開発し、ディッシュ全体の位相差顕微鏡像から分化細胞をレーザー照射によって、抗体やプローブなどの標識なしに自動的に除去するシステムを構築することに成功した。
あらたな純化の手段として提案する。
これを装置化したものがLiLACK(Laser-Induced,Light-responsive-polymer-Activated, Cell Killing)となる。また細胞致死以外の活用方法についても紹介する。