東京大学大学院医学系研究科 / 水島 昇

要旨

 オートファジーは多くの真核細胞に備わっている細胞内分解システムである。オートファジーでは、細胞質の一部がオートファゴソームに取り囲まれた後にリソソームへと輸送され、そこで生じた分解産物は再び細胞質に戻されリサイクルされる。酵母を用いた遺伝学的研究をブレークスルーとして、オートファジーの分子機構と生理的機能の研究はこの約20年間でめざましい発展を遂げた。

 オートファジーの役割は二つに大別することができる。一つは、アミノ酸などの分解産物を調達するための栄養素のリサイクルで、この機能は飢餓時のアミノ酸プールの維持、初期胚発生、内因性抗原提示などにおいて重要である。二つ目の機能は細胞内の品質管理や浄化を目的としたもので、変性タンパク質や不良オルガネラの除去、細胞内侵入病原菌の除去などを行うものであり、神経細胞変性抑止や腫瘍抑制のような長期的作用をもつことが明らかになっている。さらに家族性パーキンソン病などのヒト神経変性疾患においてオートファジー関連因子の変異が発見されている。

 一方で、オートファジーの分子機構の解析も進んでいる。これまではオートファゴソームの形成過程の研究が主体であったが、最近ではオートファゴソームの成熟過程やリソソームとの融合過程のメカニズムの研究も進展している。このようなオートファジーの分子基盤の理解に基づいて、私たちはオートファジー活性の簡便な定量的解析方法を開発した。講演では、オートファジーの生物学的意義や分子機構とともに、薬剤スクリーニング結果や創薬に向けた課題などについても紹介したい。