第8回スクリーニング学研究会 Workshop まとめ

 ページ内目次
 1. PPI創薬
 2. 化合物管理(プレート管理)
 3. 化合物管理(一元管理)
 4. iPS細胞の利用
 5. HCS (Basic)
 6. HCS(Advanced)
 7. Phenotypic Screening (Whole Organismsを用いた創薬研究)
 8. HTSアッセイ系構築
 9. HT-ADMET
 10. 物理化学バリデーション
 11. バーチャルスクリーニングの光と影 ~インシリコ技術は化合物探索にどこまで貢献できるか~
 12. スクリーニング戦略
 13. 産官学連携
 14. 天然物スクリーニングにおけるヒット後の創薬展開を考える


【Track 1】PPI創薬

今村佳正(株式会社PRISM Biolab)、古谷利夫(ペプチドリーム株式会社)

 タンパク-タンパク相互作用(PPI)阻害剤を指向したライブラリーの構築とヒット化合物の取得を如何に実現するか?という直面する課題にスポットを当てた。HTSの発展によって、これまでの創薬で重要な標的であったGPCRや酵素などでは標的分子の枯渇が起きており、新たな創薬標的の創出が必要とされている。その中でPPIは有望な創薬標的と考えられているが、標的との相互作用界面がこれまでの創薬標的とは異なるため、従来のライブラリーを用いたHTSでヒット化合物を発見することは困難であると考えられており、従来のものに加えてPPI阻害を指向した新規な化合物群が求められている。このような背景から、化合物ライブラリーのプロファイルを実際に取り組んでいる慶応大学薬学部の池田和由准教授に「PPI阻害剤研究における化合物ライブラリーに求められるプロファイルについて」話題提供を頂いた。また、PPI阻害化合物にはアッセイ系の問題は重要で、株式会社医学生物学研究所の渡部拓さんには「Liqud-liquid phase separation に基づいたprotein-protein interaction可視化法「Fluoppi」について」話題提供を頂いた。

 参加者は話題提供者の2名とファシリテーターの2名を含めて36名であった。話題提供の後、PPIに関する重要な課題について3つのテーマ(化合物ライブラリー、創薬ターゲット、アッセイ系)について、4つのグループ(各グループ8名前後)に分けて議論して頂いた。それぞれ有意義な議論ができたものと推測している。参加者が何かを得て帰られ、その後の研究の一助になっていれば幸いである。

 


【Track 2】化合物管理(プレート管理)まとめ

参加者は司会者を含め25名、アンケートの結果を基に、二つのグループに分かれ、一つのグループは溶解時の問題点についてメインに討議、もう一つのグループはプレート化時の対応と問題点をメインに討議し、最後全体討議を行った。

 【溶解時の問題点】

・不溶物のチェック方法
溶解時の析出確認については、椿本チェインLiquid CheckerやブルックスTube Auditorを用いているところもあったが、ほとんどの施設が目視判定で人依存の判断になっている。Liquid Checker、Tube Auditorともに、画像処理なので1割程度ゴミや容器の形成異常などを不溶物と見誤る。両者は紫外光、赤外光の違いであり、赤外光の場合は色つきの溶液でも判定可能である。

・溶液化時の不溶物の取り扱い
いつも話題になるテーマであり、関心が高い。しかしながら、大半の施設は不溶物の有無の確認をしているものの、アッセイ結果に厳密な精度を求めない限りにおいては、濃度が低くなっても大きな問題ではないとの認識から、積極的に入庫を止めたり、化合物を廃棄するところはほとんどなかった。ただし、不溶であることの情報をコーポレートなデータベースに登録されているところが多かった。実際の対応として、入庫時にすべての溶液化合物を一旦濾過して、濾液を入庫する。保管中の析出については、Covarisなどで再溶解を試みているところもあった。

・サンプル廃棄のルール
ケミストからの継続保管の要望や、廃棄の明確な基準がないため積極的に化合物廃棄している施設は少ない。使用頻度の低い化合物は、自動倉庫の管理対象外とし、別の手動の保管庫に入れ継続保管しているところもあった。法規制遵守の観点から提供先で廃棄した旨連絡してもらう、プレートを返却してもらい化合物管理部門で廃棄しデータを更新しているところもあった。

【プレート化時の対応と問題点】

・プレートの管理
事前アンケートの結果と同じく、参加各社ほぼ-20℃でプレートを管理していた。一方、保存期間は、液量が減少するまでと一定期間とに二分された。使用回数(freeze/thawもしくは開封)による管理は少ないようであった。Echo分注機を使用しているところでも、ログファイルに出力される各ウェルの溶液量あるいはDMSO比率(含水量)をモニターして保存期間を判断しているところは少数であった。

・プレートの吸湿
参加者の多くが吸湿の発生を認識していた。その原因として、プレートシールが不完全であることが第一に上げられた。目視では正常にシールされていると判断していても実際には吸湿していた事例が紹介された。シールの品質にばらつきがあることや、シールとプレートとの相性問題も多くあること、粘着剤の残りが実験に影響を与えることなども紹介された。吸湿による問題点は、沈殿発生、あるいは容量増加による濃度低下であるとの一般認識であった。検体の変性は、事例がないわけではないが、発生比率的に問題視されていないようであった。DMSO脱水装置は、Echo用のLDVプレートのみ有効であり、PPプレートのようにウェルあたりの量が多いものは時間をかけてもなかなか脱水しないが、吸湿速度も遅いので、吸湿に対するケアも厚くしなくてよいと考えられる。

・検体の変性
上述のとおり、検体の変性は、その発生は認識されているものの、それほど問題視されていないようであった。その理由として、発生比率は少なく、変性の生じる検体はステージアップ時に除外されることが多いとの意見があった。その一方で、ステージの進んだ、ある程度選抜された検体については変性の有無を機器測定しているとの意見が多かった。

・依頼対応
事前アンケートでは種々の変化に富んだ依頼への対応について議論が希望されていたが、実際の参加者からの発言は控えめであった。依頼対応をシンプルにする例として、濃度依存プレートを作る際に、予め用意したテンプレートの中から選択する事例が挙げられた。また、分注ミスへの対応について、Echo分注した全ウェルの液滴を測定機器で確認している事例も挙げられたが、HTS段階では事実上行えないとの意見が多かった。その一方で、再現性検討以降の評価用、構造活性相関検討用などのプレートについては細やかな対応が行われているようであったが、化合物管理部門が準備した化合物を誰がEcho分注するか(自分か評価担当者か)は施設によって異なっていた。

 


【Track 3】化合物管理(一元管理)

これまでは、化合物管理のワークショップはAdvancedとBasicに分かれて実施していたが、今年はトピック別に分けることを試行し、一元管理ワークショップと化合物管理ワークショップを実施した。一元管理ワークショップには、ファシリテーターを除き、30名の方にご参加いただいた。
前半では、5グループに分かれたグループディスカッションを行い、後半で全体討議を行った。

概要は以下の通り。

化合物供給のサービスレベルについて
レベルや対応するまでの期間は各社様々であり、化合物管理を子会社や関連会社に委託しているところの方が、サービスレベルは高い(短期間での提供、フォーマットや希釈の要望に対応など)傾向にあるようであった。

・DMSO溶液の保管条件について
凍結融解を避けるために室温で保管しているという会社があった。保管期間は1年くらいとのことで、かなり長い印象をもった。一部の化合物を除けば、室温でも結構安定であるのかもしれない。

・規制対応
一元管理の大きな目的の一つが規制対応であるが、合成中間体を含めて社内での一元管理を進める反面、化合物管理部署の子会社移管やアウトソーシングも進めているため、そこで規制対応の遅れが発生しかねない。化合物情報を別会社とどこまでどのように共有するかを手探りしている。守秘契約を結んだ上で、アウトソーシング先の規制対応担当者には構造開示しておくのがよいのではないか、という議論があった。

・一元管理対象モダリティについて
化合物一元管理は低分子化合物から始まっているが、ペプチド、核酸、DNAエンコーデッドライブラリ等の近年注目されているモダリティについては、総合的に行っているところはまだ無いようである。しかし、新規モダリティのうち、SiRNAのみを対象にしているところ、ペプチドのみを対象にしているところ等、一部を対象にしているというところはいくつか存在した。現時点では対象とはしていないが、理想的には一元管理の対象にするのが効率的ではないかという議論があった。

・一元管理に必要な人員について
一元管理を行うにあたり必要な人員は2名程度から10名程度と幅が広かった。専任か兼任か、粉体か溶液の片方か、両方を管理しているか、等々の違いもあり、必要な人員を一概に述べることは難しい。

・不溶化合物の取り扱いについて
不溶化合物はHTSには入れず、プロジェクトテーマには出すというところが多く、フラグを付けてHTSやプロジェクトテーマに出すところが2社、不溶化合物は濃度を下げて(DMSOを足して)溶かす対応を行っているところが1社あった。

・データ管理システムについて
データ管理システムについては、市販パッケージの利用よりもオリジナルで作成しているところが多い。化合物自動保管庫の有無にかかわらずデータ管理システムは必要と考えられることからパッケージ製品が欲しいとの意見があった。また、Windows10などOSのバージョンアップへの対応等の検討が必要との意見もでた。

【次回以降の課題】

これまでは、限られたWSの時間で内容が多岐にわたり、議論が消化不良気味の印象があったので、より深い議論を行うことを目的とし、トピックを一元管理に絞ったワークショップの実施を試行してみた。トピックを絞ったつもりであったが、それでも一元管理は範囲が広く、結果として今回のワークショップも時間不足を感じるものとなった。さらに議論範囲を絞るのか、他の進行方法を検討するのかが今後の課題と考える。

 

 


【Track 4】iPS細胞の利用

以下3名の話題提供の後、3つのグループ(安全性、分化誘導、スクリーニング評価)に分かれてディスカッションを行った。

關野祐子「心毒性の評価に関する国際標準化の現状」
石川充    「ヒト多能性幹細胞を用いた均質な神経細胞の作出」
太田章    「iPS細胞を利活用したスクリーニングから医師主導治験へ」

 【安全性グループ】(ファシリテーター;関野祐子)

近年国内でも10種近いhiPS心筋細胞と種々の計測システムが紹介されているものの、ICHガイドラインS7Bの改定時期、採用される試験系については依然基礎データ集積・解析の段階であり製薬企業の現場では情報が氾濫している。現在FDA主導のCiPA (Comprehensive In vitro Proarrhythmia assay) Initiativeが提案している新しい心毒性(QT/催不整脈リスク)評価戦略パラダイムの見通し・問題点及びICH Expert Working Groupの活動状況について情報共有と議論がなされた。(高砂淨・関野祐子)

 【分化誘導】

課題:ヒトの手が変わると結果が変わる。どうやったら安定化するか。
分化前のiPS細胞レベルで同じですか⇒PCRで遺伝子発現を比較する。
iPSの継代回数を一定にする。アッセイ系に適したクローンを使う。試薬の凍結融解を避けるため使い切りにする(小分け分注保管)

課題:細胞の純度臓器はいろいろな種類の細胞で構成されているので、機能を再現できる状態がいい(純度にあまりこだわらない)。

課題:プロトコールが再現できない:論文レベルで書いていない実験工程(例:放置時間、ピペッティングの回数、激しさなど)がある。インキュベーターの開閉で、CO2や温度が変化することに気を付ける。

 【スクリーニング評価】~11名(ファシリテーター;太田 章)

課題:安定性再現性:FOPについては、iPS細胞から誘導したMesenchymal Stem Cell (MSC)をプレートに播種した。それが安定していて、スクリーニングの高い再現性につながった。
長期間培養するスクリーニングの場合は、再現性が低い。自動培養装置の方が安定している。

課題:評価の指標:何を表現型でスクリーニングするかが課題、上がるものを阻害するケースの方が良い。ほとんどの病気は、Loss of Functionなので、スクリーニングの指標の選抜が難しい。

課題:実験期間:神経ははがれやすく、分化に一ヶ月かかる。拍動を見えるまで時間がかかる。

課題:市販品:株のスクリーニングをやる必要がある。出荷に改善する施策が必要
ロット間差がある。長期保存は良くなかったりする。良いロットはVenderさん頼み。
液体窒素であれば5年経ってもOK。液相は汚れやすい。

課題:市販のiPSの利用:自前で作っているケースもあれば、委託するケースもある。安全性は長期に渡るので、委託した細胞を用いた方が良い。
アルツハイマーなどのモデル細胞があり、HTSができる細胞があれば使うかについて、企業のポリシーにもよるがオリジナリティーがないので、アカデミアと連携して誰でも使えない細胞を使いたい。疾患モデル細胞系としてvalidationされた系だと、独自性が出せない。
新しい知見であるなど、他社にはない差別化するする知見が必要。

課題:モノジェニック以外の疾患:iPSの場合モノジェニックなら良いが、多様性のある疾患の場合、使えないか?iPSを活用しながら、絞込みは疾患を模倣した動物モデルなどを絡めるしかない。

 

 


【Track 5】HCS (Basic)

ファシリテータ
高橋 扶美代   (塩野義製薬株式会社)
妹尾 千明 (株式会社中外医科学研究所)

WSは、① 事前アンケートのフィードバック ②GEヘルスケア・大島様からHCSについて基礎的な紹介(事例紹介も含む)③ 主要HCSメーカーの機器・解析ソフトに関する紹介 ④ 自己紹介 ⑤ ディスカッションの流れで行った。

ディスカッションにおいては、WS参加者を10名程度の2グループに分け、事前アンケートより抽出した3テーマ(①創薬研究におけるHCAの位置づけ ②HCAにおける課題・ノウハウ意見交換 ③解析における課題・ノウハウ意見交換)について、それぞれ20分程度、自由に討論することで、参加者間の交流および情報交換を図った。

ディスカッションのテーマ①では、どのような細胞を用いるか(iPS、初代培養、株化細胞など)、ライブラリーの選択(規模や構造)、HCSヒット化合物のターゲット同定等について議論された。テーマ②と③においては、実際のHCS実施についての課題とその解決についてディスカッションが実施された。現場レベルで直面するトラブルやノウハウ(データ管理や染色手法など)等について様々な意見が出され、参加者の多くがHCSに関する解決策やヒントを得られたのではないかと思う。主に細胞を用いたフェノタイプアッセイであるHCSは、獲得できる情報量は豊富だが、選定指標やそれらを用いた統計学的解析結果の見方などのほか、ヒット化合物のターゲット同定の難しさなど課題も多い。その反面、まだまだ伸びしろのある、将来的にも大きな可能性を秘めたアッセイ法であることを実感できたWSであった。

 

 


【Track 6】HCS(Advanced)

西 洋平     (京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 創薬技術開発室)
佐野 修 (武田薬品工業株式会社 リサーチ中枢疾患創薬ユニット)
岩田 英久(武田薬品工業株式会社 リサーチ中枢疾患創薬ユニット)
大畑 六宏(アステラスリサーチテクノロジー株式会社 探索研究部)

【概要】

約25名(ベンダーを含む)にご参加いただいた。アカデミア研究者、企業研究者が均等に入るように4-5名で6グループを作った。最初に自己紹介を行った後、京都大学iPS研究所西先生よりiPS細胞を用いたHigh content analysisの事例紹介、武田薬品工業株式会社の佐野氏よりiPS細胞を用いたHCAサンプル調製方法の紹介を行った後、HCAサンプル調製についての議論を行った。その後東京女子医科大田邊先生より自作ソフトを用いたHCAの解析プロトコール作成について紹介を行い、HCAの検出系、解析系についての議論を行った。各グループで1題につき25分程度議論し、各議題について3グループから代表者がグループでの議論を紹介し、全体で討議した。最後にiPS細胞関連HCA、画像解析、サンプル調製、ロボット機械測定器の4課題のうち興味のあるテーマを選んでそれぞれでフリーディスカッションの時間を設けた。

【所感】

昨年参加したPhenotypic screeningのセッションでは、iPS細胞由来のアッセイ系について、HTSを実施している機関が少なかったが、本年のHCA advancedのセッションでは、多くの製薬企業で、iPS由来細胞を用いたHCAが実施されつつあるという印象を受けた。実際、フリーディスカッションの時間には多くの参加者がiPS細胞関連HCAの課題を選択し、活発な意見交換が行われており、今後はiPSを用いたHCSが積極的に実施されていくと思われる。

HCAの解析方法については、田邊先生より自作ソフトを用いた解析手法について紹介があったが、多くの製薬企業ではイメージャー付属の解析ソフトを使って解析しているようである印象を受けた。参加された製薬企業の研究者にとっては、解析したい対象や目的によってどのような解析方法を選択するかを考える必要性を再認識する機会となったかと思われる。今後は人工知能による解析を含め人では気づけない違いを見出す試みが行われていくのではないかと思われるが、現時点ではまだ未着手の企業が多いようである。

 

 


【Track 7】Phenotypic Screening (Whole Organismsを用いた創薬研究)

ファシリテーター
茶谷(昭和大学)、辻(第一三共(株))
参加者 約25名


 今回、本研究会では初めてのトピックであったことから、ワークショップではまず初めにWhole Organismsを用いた創薬研究の考え方について共有し視線合わせを行った。続いて、2演題の話題提供をすることで知識を共有した後にグループワークを実施した。話題提供については、ファシリテーターより「メダカの骨研究 -宇宙の先に見えるもの-」「ゼブラフィッシュを用いた低分子化合物の薬理学的評価」と題して、メダカおよびゼブラフィッシュの特長について各々の研究とともに紹介した。ワークショップでは事前アンケートの集計結果を紹介し、参加者の状況、課題を共有するとともに、その中からグループワークのトピックとして「Whole organism を用いた研究、薬理評価(スクリーニング)への理想的な活用の方法は?(今できなくても、何を達成できれば、どんなことに使えるのか?)」について、3グループに分かれて議論いただきました。それぞれのグループで話し合った内容について、代表者から発表いただき、全体共有しました。全体として、まだWhole organism を用いた研究、薬理評価(スクリーニング)を実施している機関が少なく、有用性の模索、ファシリティーの整備というところが話題の中心となりました。
 参加者はそれぞれの立場から自由な意見交換ができたと感じておりまず、またワークショップの冒頭で申し上げましたが、今回のワークショップで形成した繋がりが今回のワークショップでの成果だと考えており、今後も本トピックについて、議論を深められたらと考えております。

 

 


【Track 8】HTSアッセイ系構築

ファシリテーター:河邉 哲寛(アステラス製薬)、 和田 玲子(大正製薬)
参加者 40名

ワークショップは、下記の流れおよび時間配分で進行いたしました。

  1. 【グループ分け】(開催前)
    くじをひいて各グループに分かれた(4~5人/グループ)
  2. 【自己紹介&アイスブレイク】(15分)
    グループ内で自己紹介&アッセイ系構築にまつわるクイズの答えをディスカッション
  3. 【事前アンケートフィードバック】(60分)
    個別回答で挙がった様々な課題や疑問点について講義形式で回答(随時質疑応答)
  4. 【グループディスカッション】(20分)
    アンケートフィードバック以外の課題や、さらなる疑問に関して意見交換
  5. 【ディスカッション内容発表】(20分)
    ・各グループの集約意見を代表者が発表
    ・挙げられた疑問に対する、ファシリテーターや、フロアの方々によるコメント/回答
  6. 【WSのまとめ】(5分)
     

本WSは参加者が多く、アッセイ系構築、HTS実施、安全性、アカデミアおよびベンダーといった多岐に渡るご所属と経験度が様々なメンバー構成のため、入室時に企業・アカデミア・ベンダーが均等に分配されるようにランダムに振り分けた4~5名のグループに分かれていただきました。グループ内での自己紹介の後、アイスブレイクの要素を兼ねてアッセイ系構築に関するクイズの回答を協議していただき、アッセイ系構築において気にするべき点を考えるきっかけといたしました。

次に、担当業務、用いるアッセイ系や構築する上で重視しているポイントなどに関する事前アンケート回答をフィードバックし(和田)、個別回答欄に記載された疑問については事例紹介を交えながら回答しました(河邉)。回答した内容は、評価系の選択・酵素系および細胞系に関する課題・HTS化の判断基準・ミニチュア化および分注機/自動化などと様々な内容であり、フロアからの質疑応答も随時行いました。

その後、アンケート回答以外の点を中心に各グループでアッセイ経験や現在抱えている問題について討議していただき、代表者の方にその内容について発表していただきました。各グループで活発な意見交換がなされ、アッセイ系構築時の条件の振り方、S/Nの改善方法や、アカデミアでのスクリーニングにおける課題、陽性対照化合物がない場合のアッセイ系構築で注意する点など各グループから様々な話題が提示されました。それぞれの課題解決案について、アッセイ系構築経験の多い参加者やファシリテーターからいろいろな意見を述べていただきました。

様々な背景の方々が参加し各自の課題を持ちよって議論していただくことで、課題の共有や解決だけでなく、新たな発見などが生まれる有意義な機会となりました。事前アンケート内容について、質疑応答を交えた形でフィードバックを行ったため少々時間を要してしまい、ディスカッションの時間が短くなってしまったことが反省点ではありますが、WSごとに分かれた懇親会のテーブルにて、足りなかった時間を補うことができました。

 
 

【Track 9】HT-ADMET

昨年同様、全体セッション1回とグループセッション2回に分けてワークショップを行った。

 全体セッション~はやい・うまい・やすい

ADMETスクリーニングが社内で信頼を獲得するためには「はやい・うまい・やすい」を達成する必要がある。いずれの項目も重要であるが、事前アンケートの結果、「はやい」を重要視している参加者が多かった。

「うまい」

高品質のデータを供給するための取り組みについて下記の項目について討論した。

  • 試験法構築の際のバリデーションの重厚さ
  • 分注器の精度チェックの頻度および方法
  • 質量分析計の精度確認
  • 結果報告の際のクライテリア設定
「やすい」

データを安価に供給するための取り組みについて、主にミニチュア化について議論した。
ADMETでミニチュア化をしても依頼化合物数が増えないと空きウェルが増えるため、メリットが最大化しにくいとの意見もあった。使用する化合物量を低減できるメリットから、Echoを用いた微量提供の話題となった(数社が実際にEchoを用いたADMET用化合物提供を受けていた)。

「はやい」

高速な分注器や測定器を導入しても化合物の受け渡しや依頼情報の受け渡しなどで時間が掛かってしまうと意味がないため、はやいの基準として依頼を受けてから結果を報告するまでの時間を短縮することが重要であることを確認した。そのためには試験の各工程に掛かる時間を調査し、ボトルネックを抽出してその改善を行うことが重要であるとの結論を得た。

 

 グループディスカッション①~ADMET評価戦略

以下の小グループに分かれて議論し、各グループでの議論内容を全体で共有した。

  • 実施タイミングと施設
  • 開始するに当たり必要な機器・知識・スキル
  • データの信頼性
  • ニューモダリティのADMET評価
     

 グループディスカッション②~ファンクションごと

ADME系、DDI系、Tox系のグループに分かれて①と同様、議論後、各グループでの内容を全体で共有した。

 
 

【Track 10】物理化学バリデーション-Biophysical Quality Assessment:創薬プロセスにおける品質評価と物理化学-

約20名が参加し、ファシリテーターの他に大手もしくは中堅の製薬会社からの参加者の発言が多かった。
事前アンケート結果を踏まえ、1.SPRの評価に困ったら、2.Lead創出に物理化学測定は活用できるのか、3.物理化学測定に関する技術的な議論、4.その他議論、という順番で議論を進めた。主な議題と討論の内容は以下の通り。
 

【議題1】SPRの評価に困ったら

SPRはタンパク質の消費量が少なく、測定も比較的簡便であるため多くの企業等で第一選択肢として使用されている印象であった。事前アンケートでSPR関連の質問、話題提供が多かったのはやはりユーザー数に比例しているようだった。今後もこの傾向は続くと予想され、物理化学測定のWSにおいても議論の中心はSPRになると考えられる。

 

【議題2】Lead創出に物理化学測定は活用できるのか

参加者の多くは、物理化学をヒットバリデーションに活用しており、これからヒットtoリードやリードオプティマイゼーションにも展開したいという位置づけにあった。そのためレトロスペクティブな解析では無く、実際の合成展開の過程でどのように物理化学測定を活用できるのかという話題提供が行われた。今回はWS参加対象者をメドケム、計算化学といった分野まで広げており、彼らの意見は物理化学測定の結果がどのように使われているかを知る意味では興味深かった。一方で、こういったバックグラウンドの参加者は数名に留まり、十分な議論が出来たかは疑問が残る。

 

【議題3】物理化学測定に関する技術的な議論

どの測定系でもfalseを出す可能性があり、測定をどのように組み合わせるかという点で各社工夫しているようであった。各社ごとに(もしくは参加者ごとに)得意としている、あるいは活用頻度の高い測定機が異なっており、どの測定機に質問が及んだ場合にも参加者から何らかの回答は得られるものの、上述のように相互の情報交換には参加者のレベルに乖離があるように感じた。

 

【今後の課題】

・SPRユーザーが多かったため、他の測定機に関しては、相互の情報交換というよりも、熟練した参加者からの情報提供の意味合いが強く、参加者によってはメリットが薄くなってしまう事が懸念された。はやめにアンケートを精査し、装置間の相互関係が討論できる場を設定(話題提供者の参加)が必要と思われる。
・時間の関係上、あまり話題には出来なかったが、「新しい測定機器」、「膜蛋白質に対する取り組み」は皆興味のある話題のようであった。
・基礎編と実践編に分けた情報交換の場を定期的に設けた方がよい。
・今回はアカデミアからの参加者がいなかったため、Lead創出に関する話題は、どうしても製薬企業が中心になる点は今後の課題であると感じる。
・計算科学(in silico)と物理化学の相互関係も今後重要な議題になる。

 

 

【Track 11】バーチャルスクリーニングの光と影 ~インシリコ技術は化合物探索にどこまで貢献できるか~

ファシリテータ
日本たばこ産業株式会社 医薬総合研究所               堀 浩一郎
 Axcelead Drug Discovery Partners株式会社              糸野 幸子
産業技術総合研究所 生命工学領域                  石原 司

 

 計算化学、HTS担当者、Cheminformatician、Chemistなど多彩な職種の21人のメンバーで、本タイトルについて議論した。

 まずファシリテータのAxcelead社(旧武田)の糸野氏より、「アンケート結果から見えてきたもの」と題して、事前アンケートの集計結果の解析を報告した。HTS~計算化学の間の関係やスクリーニング結果に対する印象の違い、その理由や原因などに対する現状を報告し、今後我々が何をすべきと感じているかがアンケートから浮かび上がってきて、その後の総合討論にスムーズに移行することができた。

 次に産総研・石原氏から「バーチャルワールドとリアルワールドを繋げちゃえ:医薬候補化合物自動探索装置の開発」と題して次世代のAI技術を組み込んだ全自動化合物合成システムの紹介を行い、バーチャルスクリーニングの先にあるAI創薬の姿を参加者で共有することができた。

 その後、総合討論と題してバーチャルスクリーニング周辺の様々な話題について議論を行った。バーチャルスクリーニングに対するネガティブな印象の原因やその対応、そもそも何のためにバーチャルスクリーニングを実施するのか、各組織はどう対応すべきか、根底にくすぶるあらゆる不平不満など、様々な話題について意見交換を行った。結果として何か方向性が見えてきたというわけではないが、バーチャルスクリーニングのさまざまな問題点を共有でき、バーチャルスクリーニングに対する危機意識は各社でほぼ共通であることが確認できた。

 毎回のことではあるが、議論が白熱して2時間の枠では足らなくなり、ファシリテータとしては苦渋の決断で議論を途中で打ち切らざるを得なかったことは残念である。

 今回の初めての試みとして、参加者で撮った集合写真とともに当日の議事録を参加者にファイル配布した。この試みが良かったかどうか事後なので確認できていないが、機会があれば継続したい。

 また懇親会の席がWS単位で構成していただいたことから、飲み物を片手に議論を続けることができた。この試みは是非継続していただきたい。

 

 

【Track 12】スクリーニング戦略

WS参加者は、4つのグループ(4~5名)に分かれ、グループがそれぞれ一つの製薬企業として、メンバー自身が経営陣であるとの想定で、自社の低分子(HTS)創薬のボトルネック解消のためには、今後どのような戦略を選択すべきかを討論し、その結論をWS全体で発表して、各グループの戦略案を共有した。事前アンケートの結果と「新薬創製の現状と課題」、「最近の製薬業界を取り巻く話題」を紹介しながら、“低分子創薬を進める我々としての戦略“を以下の各トピックスに対して、3クールに渡り意見交換した。

【Ⅰ.化合物の戦略】 

  • 化合物ライブラリは自社拡張路線よりも、それを補完するために、共同購入やライブラリ交換を積極的に進めたいという意見が大勢であった。各社ライブラリ化合物の質に対する信頼感は高くなっており、スクリーニング実行のライブラリ戦略を立てるためには、早い段階で構造開示が望まれている。
  • 新しいモダリティ(中分子、核酸、DNA-encodedライブラリ等)によるリード化合物取得機会の増大を図りたいが、検証やコスト等の事情により、慎重に進めたいと考えるグループが多い。

【Ⅱ.ターゲットベースかフェノティピックかの戦略】 

多くのグループで、現状はターゲットベースが主流であるが、それぞれのアプローチに対して長所・短所があり、その課題解決が重要である。

  • ターゲットベースの場合は、薬剤ターゲットの枯渇や病態を反映できる評価系のブラッシュアップ等が課題としてあげられた。
  • フェノティピックへの期待は大きいが、今後それを主体とした戦略を取るとしても、疾患を模したフェノタイプを検出できるin vitro疾患モデル評価系の構築、効果的なヒット選抜方法、その先のSARの進め方等、解決すべき課題も多い。

【Ⅲ.HTS戦略 アライアンス】 

ここ数年の過去WSのアンケート結果と比較して、HTSの戦略に対する所属組織と参加個人間のギャップが縮まっており、年々“選び抜いたテーマに腰を据えて取り組む”という方向性が強くなってきている。今回は、アライアンスの未来モデルを各グループで描きながら討論を進めた。

アライアンスを強化しながら、得意分野への資源の集中やHTSの一極化(社内および同業間)が進むと予測し、外部CRO、公的機関の活用に加えて、all Japanで集約可能な仕組み、あるいは新らたな技術ベースの探索研究共同組織の構築の実現性などについて意見交換した。新しい枠組づくりを推進するためには、一層、自社の独自性を高める事が重要であるとの意見があった。

 

 

【Track 13】産官学連携

参加者は、ファシリテータを含めて19名であった。
以下のような内容で、ディスカッションを行った。

  • 産官学連携の状況(国内、海外)ーファシリテータより紹介
  • 化合物ライブラリーに関するディスカッション
  • 企業間・アカデミア間のライブラリーの相互利用の促進
  • アカデミアの企業ライブラリー活用のアイディアに関してのディスカッション
  • HTSの機能集約(アカデミアから企業へ、企業間での連携)
     

 産官学連携の状況(国内、海外)

公的機関等における創薬支援の事例
欧米も含め、出口支援を伴わない研究費による支援が多い
欧米は支援フェーズ、及び支援対象機関が幅広い

アカデミア発創薬シーズの実用化支援に関する事例
シーズ実用化に関する環境は、欧米に対して規模・種類ともに及ばない

「日本医療研究開発機構」の組織改正が7月1日にあった。
”AMED-Technology” Model(創薬支援推進ユニット)は、NIHの’Virtual Pharma’modelを参考に新たに立ち上げた。
創薬支援ネットワークの機能強化・拡充のため、創薬支援ネットワーク構成機関に加えて、国内に分散、独立している民間のリソース(CROや製薬企業の遊休設備・技術等)等の基盤を活用・整備し、創薬支援ネットワークのプロジェクトの推進・加速化を実現する。

 化合物ライブラリーに関するディスカッション

共有のライブラリーのディスカッションに関しては、ライブラリーの拡張により、構造のダイバシティは広がる。共有する場合のルール作りは、大変であるが、共同で使えるものは使いたい。目的を明確にする必要性はある。共有のライブラリーは、特徴をどう出していくかが今後の課題。ライブラリーの質をどう考えるかなども議論として挙がった。

 HTSの機能集約(アカデミアから企業へ、企業間での連携)

スクリーニングセンターができたらよい。機器だけでも共有できたらよい。今後の人材育成を考え、企業からの派遣による人材交流もできたらよい等のディスカッションがあった。

 

 

【Track 14】天然物スクリーニングにおけるヒット後の創薬展開を考える まとめ

永井 浩二 (大鵬薬品工業株式会社)
村松 康範 (第一三共RDノバーレ株式会社)
奥田 彰文 (エーザイ株式会社)

天然物創薬をテーマとしたワークショップは2016年度に引き続き2度目の開催である。昨年度は「天然物創薬のボトルネックを考える」と題し、天然物創薬の抱える課題を抽出した。中でも、「ヒット後の創薬展開」という論点に議論が集中したことから、今年度のワークショップではそこをさらに掘り下げることとした。なお参加者は総勢16名であり、その内訳は企業、国、アカデミア等であった。

本ワークショップではその趣旨説明の後、参加者全員による自己紹介の時間を設けた。各参加者がどういう興味をもって本WSに参加したかなどを語っていただいた。これにより会場にある種の一体感が生まれた。続けて行われたテーブルディスカッションでは、アンケートの結果を踏まえ、テーブルごとに「ヒット創出」、「高次評価」、「誘導体展開」、「産官学連携」の4つのテーマを設定し、参加者がそれぞれの立場で自由に意見を交換し、課題の解決に向けた前向きな議論を展開した。

【テーブルディスカッションについて】

本ワークショップ参加者は上述の4つの課題の中から最も関心のあるテーマのテーブルに着席し、テーブルディスカッションを行った。今年度は十分な議論時間を確保するため、テーブルディスカッションを1回のみとし、席替え等は行わなかった。最後に各テーブルでの議論内容を全体で共有した。その内容の一部を以下に記す。

天然物素材のスクリーニング手法としては、たとえスループットが低くても表現型スクリーニングが望ましいとの考えが多く示され、その応用例の一つとして疾患iPS細胞を用いたスクリーニングについて議論した。また、天然物創薬が直面する喫緊の課題として、「スクリーニングの機会が減っていること」、そして「誘導体展開が難しいこと」が挙がった。これらを解決するために、組織の壁を超えたマッチングが有効と考えられるものの、各社がばらばらで活動してもその効果に限界がある。複数の企業・アカデミア等が一体となった「ニーズ」をつなぐ取り組みが効果的だと思われることから、より広範な産―官、産―学、産―産のマッチングを実現し、それらを有機的につなぐための仕組みづくりを国に要望してはどうかという意見があった。次のアクションにつなげるためには、まず企業、アカデミア等のニーズを顕在化させる必要がある。別途開催される「天然物創薬研究会」などの場も利用して、本議論を継続していく。