第7回スクリーニング学研究会 Workshop まとめ

【Track 1】 PPI創薬

今回のワークショップでは、最初に事前に行ったアンケート結果をまとめる形でPPI創薬に関する参加者の現状認識と抱える課題を共有した。引き続きバイオロジーの観点からPPIターゲットの同定スクリーニングについて、またケミストリーの観点からPPI化合物、ライブラリーに関する話題提供を行い、参加者にグループ討議をしていただいた。

主な内容は以下の通り

【PPIターゲットの同定スクリーニングについて】

話題提供題名:『プロテインライブラリー/プロテイン・アクティブ・アレイを用いたPPI探査について』

話題提供者:株式会社セルフリーサイエンス 代表取締役社長 尾澤 哲先生、愛媛大学 プロテオサイエンスセンター プロテオ創薬科学部門 部門長 竹田 浩之先生

【PPI化合物、ライブラリーについて】

話題提供題名:『中分子薬に関する解析文献紹介』

話題提供者:株式会社PRISM BioLab 小田上 剛直

【グループ討議まとめ】

PPI創薬は難しいと言う認識はバイオロジストにもケミストにも共通している。PPIをターゲットしたスクリーニングでのヒット化合物は概して活性が弱いため展開が難しく、ヒットに恵まれない印象がある。従ってPPI創薬にはコンセプトが必要だと思われる。ヒットが出なければそれ以降の展開が図れないことを考慮すれば、中分子からスタートすべきか?低分子ヒット化合物からの合成展開で何を考慮すべきか?天然物から進める方法論の可能性は?等、各グループでPPIをテーマに議論していただいた。一定の結論を得るところまでは至らなかったが、グループ討議と各グループの討議内容を共有することで参加した皆さんが抱える課題を解決するヒントが得られたことを期待したい。
 

【Track 2】化合物管理 Advanced まとめ

参加者は司会者を含め20名,大半は製薬企業の関係者であったが,公的機関からの参加もあった.テーマは「DMSO溶液の品質の維持・向上」と「ライブラリ共有・交換対応」で事前アンケートの結果を共有しながら,議論を進めた.

 1.DMSO溶液の品質の維持・向上について

昨年度は,維持すべきDMSO溶液品質の内容とその対策についてリストアップ,関係づけを実施した.DMSO溶媒の高い吸湿性からDMSO溶液の吸湿に依る溶解度の低下,析出,酸化分解と様々な品質低下へとつながっていき,いかにDMSO溶液を吸湿させないかが重要であるとの認識が共有された.そこで,今年度のアンケートで吸湿対策の有効な手段,環境について質問させて頂いたところ,実験室,あるいは調液用ブース内湿度コントロールが有効であるという意見が多かった.一方で,不活性ガスの保管容器への充填は,手間とコストがかかる割に効果が少ないとの認識であった.また,一度吸湿した溶液を脱水する機器について議論され,吸湿により析出した溶液を脱水することで,濃度,溶解度が戻り,再溶解させることで有効であるとの意見が出る一方で,吸湿が引き金となり分解した化合物溶液は,脱水しても効果がない点も指摘された.さらに,脱水後の析出サンプルの再溶解について, Covarisの有効性に議論が発展したが,特定のシールを用いたプレートのサンプル再溶解の際に,Covarisの強力な超音波が,シールの粘着を阻害する効果が見られ,容器のタイプや密閉方法に注意が必要であるといった現場担当者ならではの詳細な議論が展開された.

 2.ライブラリ共有・交換対応について

昨年度は,ライブラリー共有,交換について実施が盛んになっている中,その実態についての調査を行った.今年度はさらに,共有,交換ライブリーの利用価値,活用方法,有効活用のために必要な環境などの質問をさせて頂いた.

アンケートの集計結果からは,ライブラリ交換に半数の方が「自社ライブラリにない化合物のヒットが得られるので十分価値がある」と感じている一方で量的な問題や,構造開示の制限,特許取得の制限のため使いづらい等の否定的な意見も見られた.

構造開示の制限に関して,すべての化合物の構造を開示する必要はないが,ヒット化合物の構造の開示が可能なら価値はある.交換量が少ない場合は,ヒット化合物について,再供給やサプライヤー情報の提供をしてもらえる旨を契約に盛り込むようにする必要がある.また,通常ライブラリ交換は数十μLが一般的であることから,ライブラリを有効利用するためにはEchoとその周辺機器が必要と考えているが,現実としては大半の参加者が共有,交換ライブラリーを有効活用できる環境が整備されていないと感じているようである.

 3.その他

DMSO-d6を使った化合物の保管及びEchoプレートの分注が話題に上った.NMRによる測定を前提としているため,濃度を通常より濃くしており,高粘度のためEcho分注がうまくいかず,結局,チップ分注で対応している.これに関連し,DMSO-d6溶液化合物のデータベースでの管理方法や管理システムの機能追加についても話題が及んだ.

議論が進めていくと話題がおのずとEchoに関わるところに向き,実機の導入の有無にかかわらず,Echoへの関心の高さが伺えた.

今回のWSは全体議論形式で進め,時折司会者から指名するなどして,多くの方に発言していただけたと感じている.残念な点としては,ライブラリ交換の話題については一部デリケートな内容を含んでいたこともあり,議論が少しトーンダウンした印象も受けた.次回のテーマとして「化合物の維持・整理・管理の仕方」について提案をいただいた.

 

【Track 3】化合物管理Basic 議事録

化合物管理Basic WSには、ファシリテーターを除き、16名の方にご参加いただいた。

前半では、杏林製薬株式会社 高土居氏の基調講演内容についての議論を行い、後半では事前アンケートにてご回答いただいた質問したいこと、議論したいことについて、参加者の経験を出しあう形で議論を行った。

少人数または専任がほとんどいない状態で化合物管理を行わなければならない環境下で、いかに効率的に実務を進めていくかという視点での議論が多かったように思われた。

概要は以下の通り。

【杏林製薬株式会社 高土居氏の基調講演内容についての議論】

基調講演での質疑応答時間が限られていたこともあり、WSでは各社課題と感じている、化合物溶解、DMSO溶液プレートの使用期限、サンプル残量管理、QAQC、法規制対応、等について、質問やコメントをいただいた。杏林製薬での経験として、Covarisは杏林製薬使用のチューブでは効果的でなく、シェーカー、超音波で溶解し、遠心で不溶物を沈殿させ上澄みを分注する、DMSOプレートの使用期限は凍結融解10回、サンプル残量はDBに実績を記録して管理、法規制対応は化合物管理チームで実施、という説明があり、それを呼び水として各社では、Covarisで溶かしたものは、活性が上がった、サンプル残量管理は風袋事前登録が重要、凍結融解は5回とか1年という運用ルールや、凍結融解をなるべくしない、プレートの品質維持に重要なプレートシールは、製品によってかなりの性能差がある、というようなコメントをいただいた。

【事前アンケートに関する議論】

化合物一元管理

メリットとしては、施錠等の管理が可能、一般研究員からみると、法規制対応の煩わしさから解放される、等の意見があった。デメリットとしては、化合物払い出しに時間がかかるということがあるが、専門の要員を確保していて、迅速な提供を実現しているところもあった。

化合物提供形態

粉体提供を薬包紙で行ってほしいという要望に応えているが、吸湿の問題に悩んでいるという話題が提供された。問題解決は難しいという意見が多い中、議論は微量な粉体やオイル等の難秤量性サンプルの秤量・提供方法へと移っていき、特注で作成した、先を薄くしたスパーテルの利用や、オイルはスパーテルにつけたまま、試験管に入れて提供している、等の工夫が紹介された。

【次回以降の課題】

上に記載したもの以外にも、アンケートにご記載いただいた議論したいトピックは多くあったが、今回のWSでは触れることができなかった。アンケートご回答内容についての討議の時間配分とともに、参加者の発言機会の濃淡の差をできるだけ小さくすることを次回以降の課題としたい。

 

【Track 4】iPS細胞の利用

1、参加者の自己紹介とiPS細胞への「夢」を言ってもらいました。

2、塩野義製薬(株) 赤澤貴憲さまから「ヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞の消化管吸収性予測研究の可能性と課題」のタイトルで研究を紹介していただきました。ヒトiPS細胞から小腸上皮を作製し、トランスウェル上に極性を持った上皮の細胞層を形成することができた。薬物の透過性は薬物の蛍光吸収性と高い相関性が得られた。また薬物の代謝活性が小腸上皮に近い活性を示し、消化管からの吸収を予測できると考えられた。しかしその特性としては退治型に近かった。iPS細胞から評価可能な上皮細胞層を作製するまでに2-3か月を要することが課題であった。

3、アンケートのまとめiPS細胞の「品質」、「分化誘導」、「スクリーニング」についての課題をまとめた。「継代数・ロット・個人差による品質の変化、増殖性のある分化細胞がない」など細胞の本質に近い課題、「生体の状態を反映しているといえるか?未熟な細胞である」など解決に比較的長期にわたる研究が必要な課題、「培養時のマトリックスや培地、自動化、大量培養、不均一な分化」など技術面で解決できる課題などが列挙された。

4、ファシリテータの太田から、京都大学iPS細胞研究所で進められている、iPS細胞の維持培養の改良、新しいマトリックスによる分化誘導の改善事例、分化誘導を10日間に短縮できた事例など、を紹介した。

5、企業や公的機関による研究が進められて、一歩一歩前進している。これを今後も継続していくことが、創薬スクリーニングへの「iPS細胞の利用」を可能にしていくと思われる。

 

【Track 5】Phenotypic screening WorkShopまとめ

25名(ベンダーを含む)にご参加いただいた。アカデミア研究者、企業研究者が均等に入るように4-5名で6グループを作った。最初にグループ内で自己紹介ならびにphenotypic screeningでの問題点などを議論していただいた。その後、武田薬品佐野氏の事例紹介を交えて、「アッセイ系について」、「ライブラリについて」ならびに「標的同定について」について各グループで1題につき15分程度議論した。各議題について2グループから代表者がグループでの議論を紹介し、全体で討議した。主な意見は以下の通り。

【アッセイ系について】

Phenotypic screeningにおける「Rule of 3」 の重要性は理解しており、「如何に病態を反映したアッセイ系を構築するか」が参加者の共通の関心事であった。そのためiPS細胞を用いたアッセイ系構築に着手することを検討している、着手している研究機関も見られたが具体的なノウハウには至っていない。Positive controlが無い場合など、アッセイ系のバリデーションに難航している印象を受けた。Phenotypic screeningにおける「Rule of 3」 の重要性は理解しており、「如何に病態を反映したアッセイ系を構築するか」が参加者の共通の関心事であった。そのためiPS細胞を用いたアッセイ系構築に着手することを検討している、着手している研究機関も見られたが具体的なノウハウには至っていない。Positive controlが無い場合など、アッセイ系のバリデーションに難航している印象を受けた。 

【ライブラリについて】

企業研究者:全ライブラリからphenotypic screening可能な代表化合物を選ぶことは理解できるが、方法については構造多様性、生物活性で抽出するべきなのか明確な方針が定まっていない。一方でスループットが低い系であっても全ライブラリを評価することで新規知見が得られるのであえてライブラリの絞込みはしないとの意見も有った。

アカデミア:数万単位でのスクリーニングを実施する場合もあるが数千単位で終わらせることも多い。ライブラリは東大創薬機構、LOPACなどを使用している。

【標的同定について】

Phenotypic screeningで見出されたヒット化合物の標的同定について、必要性、時期、方法などを議論した。実施例、成功例が少ない中で標的同定の必要性を認識しているものの、各機関で方針は異なる印象を受けた。また、新薬申請/承認に標的分子の情報が必要なのか?との議論も生じ、安全性が担保されており、メカニズムを示唆するPDマーカーがあれば標的同定は必須ではないであろうとの意見や、一方で安全性、メカニズムを予測するためにも並行して標的同定に挑戦する必要もあるとの意見もあった。

【所感及び次回以降の課題】

Phenotypic screeningに興味はあるものの、アカデミア/企業間でのスタンスの違いが明確になり、多様な価値観を共有できたことは有意義であったと思われる。iPS細胞由来のアッセイ系について、HTSを実施している機関が少ないため、深い議論ができなかったものの、今後数年で"iPS細胞を用いたHTS/Phenotypic screening"というWSができるように各研究機関での実施例が増加すると飛躍的に技術レベルが高まるのではないかと思われた。Phenotypic screeningにおける「新規知見」の定義により、各研究機関のスタンスが異なることが判明したのでPhenotypic screening戦略について議論する可能性も考えられた。

 

【Track 6】3次元培養技術の現状と可能性 -スフェロイド培養とオルガノイド培養の比較-

本ワークショップは約40名の参加者で、アカデミア・製薬が7割、ベンダーからの参加が3割程度であった。

アンケートの結果紹介の後、東京大学・創薬機構の今村氏よりスフェロイド培養についての種々の条件検討における結果紹介がされた。初めてスフェロイド培養するという観点で実験を行いその結果を報告していだたけた。スフェロイド培養をするために様々なデバイスがあるが、その中から低接着U底プレート、ハンギングドロップ、磁性ビーズ、マイクロパターンのポリスフェロイドプレートを選択。細胞数、培養日数を振った実験結果が紹介された。どのデバイスでも問題なくスフェロイド培養ができるし、各種アッセイもそれなりの結果が得られていた。実際に手を動かして気づいた部分や感想が参加者でシェアできたと感じる。

引き続き、慶應義塾大学・薬学部の齋藤義正先生より、オルガノイド培養について紹介があった。マトリゲル中で、いくつかの増殖因子存在下、無血清培地で培養されるこの手法は、ハンドリングや培養コストにまだ問題があるものの、一部の細胞で幹細胞性を維持しつつ分化・増殖ができる生体内組織に酷似した培養法である。最近報告され始めた培養法であり、参加者の関心も高く会場で活発な質疑応答がなされた。

Q オルガノイドはがん幹細胞から形成されるとのことだが、すべてのがん組織から樹立できるのか?
A 本日発表したデータは樹立成功した症例だけを示しているが、安定的に培養・維持できるオルガノイドの樹立成功率は約50%程度である。
      分化したがん細胞からはオルガノイドは樹立できないので、樹立しようとするがん組織の中にがん幹細胞がどれだけ含まれているかがポイントになると思う。

Q オルガノイドの中は中空なのか?そうだとすれば、その仕組みは?
A 多くのオルガノイドは一層の細胞でのう胞状の構造をとっており、その中は中空である。ただ、症例によっては充実性の構造をとるものもあり、なぜそのような構造をとるかはまだ明らかになっていない。

Q オルガノイドを3次元培養する際にマトリゲルを用いているが、Ⅰ型コラーゲンや浮遊培地などで培養するとどのようになるか?
A 我々はオルガノイド培養を行う際にはマトリゲルしか用いていないので、Ⅰ型コラーゲンや浮遊培地などで培養するとどのような変化を示すかはまだ分からない。非常に興味深いので、是非試してみたい。

この後出席者全員によるディスカッションがなされた。事前アンケートで関心の高かったスフェロイド培養自身(均一なスフェア作成)、アッセイ法(特に蛍光顕微鏡によるイメージング)などが中心となった。

蛍光顕微鏡によるスフェロイド内部構造や内部細胞の挙動の評価、ライブセルでの評価に関しては、染色と検出が問題であり、透明化を含めた様々なアプローチが議論された。蛍光顕微鏡の解像度の限界もあるので、そのあたりを考慮したアッセイ系を組む必要がある。一方、3次元のスフェロイドを画像解析する場合、以前はかなり大きな問題となった画像取得とデータ量増大、その画像解析スピードはコンピュータースペックの進化で改善されつつあるようだ。

スフェロイドの様な細胞が密になった構造での化合物の浸透についても議論された。化合物の物性(脂溶性や細胞内での分解)などに大きく依存する例があり、癌に対するスクリーニングではメリットが考えられる(これ以外のファクターももちろんあるが)。

参加者全員でのディスカッションを行ったため様々な意見が出て活発な議論ができた反面、一度も発言できない参加者もいたまま終了時間になってしまった。タイムコントロールが不十分であったことがファシリテータとしての反省である。一方、基礎的な検討報告とともにアカデミアの最先端事例紹介が話題提供となり、ベンダーからの参加者を含めて幅広い事柄を話し合う機会を持てたと感じる。

 

【Track 7】アッセイを極める(Basic)

ファシリテーター:高橋 扶美代(塩野義製薬)
参加者 24名

ワークショップは、下記の流れおよび時間配分で進行いたしました。

1.      20分 自己紹介 所属、名前、WSに参加した目的(評価系の経験、興味、何を知りたいか?など)
2.      5分 グループ分け 席移動 ファシリテータ―にて興味が近い人をグループ化
3.      15分 グループディスカッション アンケート用紙利用 (課題、知りたいことなど記載し整理)
4.      15分 グループ単位で集約意見を発表
5.      20分【アッセイ精度確保の重要性について】塩野義 高橋が発表
6.      30分 質疑応答 さらなる話題の拡大、知り合いづくりも兼ねる
7.      10分 WSのまとめ

まず初めの自己紹介で述べられた実務内容をベースに、ファシリテーターにて、6~7名の4グループに分類し、テーブルディスカッションを行いました。参加者は、安全性、セルベース、分子相互作用評価のほか、アッセイ経験度が異なるといった、分野が多岐にわたるメンバーでしたので、特定のテーマにフォーカスはあてず、まずは自由にアッセイ経験や現在抱えている問題について協議していただきました。その際、各グループに進行役、書記、発表者を決め、協議後にその内容について、発表していただきました。WSは、参加者自発型の意見交換の場にしたい意向があり、この方式をとりましたが、いずれのグループにおいても、現在直面している問題点に対し、対策や工夫法などの情報共有がなされていることを確認することができました。例)1次スクリーニングは、まずは感度の良い評価系を選択する。カウンターでのホールズポジティブの排除法など

続いて、集計した事前アンケートの内容を皆さんに口頭で説明し、参加者の共通の課題として挙げられていた「アッセイ精度の確認方法」にフォーカスを当てたオーバービューを塩野義の高橋から発表いたしました。フロアからは、その後、色々な質問があり、そのうちの1つとしてアッセイ系によっては避けられないホールズポジティブはどう避ければいいのか?といった質問に対しては、HTSで絞りこんだのちに、他の評価系で精査するのが適当であるといった議論がなされました。

参加者が24名と比較的少人数であり、またグループ単位で少人数でのディスカッションを行ったことで、参加者が発言しやすい雰囲気ができたと思います。ただ、②のグループ分けにおいて少し手間取ってしまったことが反省点として挙げられます。全体的には、参加者自発型の意見交換の場になり、問題の共有化や議論を通した解決を行うことを通し、参加者間の交流を深めるよい機会になったと思っています。

 

【Track 8】アッセイを極める(Advanced)

ファシリテーター: 村越 路子(第一三共RDノバーレ)、武本 浩(塩野義製薬)

参加者 23名

 先ず、事前アンケートの集計結果を皆さんに提示しました。アンケートは、このワークショップでどういったことを議論すべきかを確認させていただく内容でした。アンケートの結果では、参加者の方の多くが共通して酵素およびGPCRをターゲットとしたアッセイを実施していたため、まずは、この2つにフォーカスを当て議論をすることにしました。それを受け、お二人の研究者から、それぞれの標的において『目的とするProfileを持つ化合物を取得するためには』という観点で、各分野における最新情報を盛り込んだアッセイ技術のオーバービューをしていただき、フロアからアッセイの安定性向上のために工夫していること、カウンタアッセイやプロファイリングの手法についてアイデアをお話しいただきました。

 続いて、アンケートで参加者の方の興味が最も高かった『疾患関連性の高いアッセイを行うためには』というテーマで、グループディスカッションを行いました。ディスカッションを通じた横のつながりを形成することも目標のひとつとしており、7~8名からなる3つのグループに分かれて約45分間、自己紹介とラウンドテーブルディスカッションを行っていただきました。疾患関連性の高いアッセイを構築するために、現在直面している問題点やうまくいった工夫などについての情報共有がなされました。

 最後に、各グループからディスカッションした内容をご発表いただき、参加者全員で討論しました。疾患特異的な初代細胞を使ってフェノタイプアッセイを構築する際には、求める薬効を得るためにどの細胞内シグナル伝達にフォーカスを当てるべきか不明であることが多いという課題があります。そのため、求める薬効に結びつくプロファイルを持つ化合物を取得するためには、様々な性状の化合物を様々なアッセイ法で拾い集めたうえで、実際の疾患で効果があるかどうかをじっくりと調べていく、また、優れたコンセプトであるならば、あらゆる手を使って化合物を探すべき、といった意見が出されました。

 参加者が23名と比較的少人数であり、またグループ単位で少人数でのディスカッションを行ったために、参加者が発言しやすい環境にあったように感じています。共通の問題を共有化し、議論し、解決していく中で、これからも継続して交流できる『つながり』が形成できたのではないかと思います。

 

【Track 9】HT-ADMET

事前の参加者アンケートに基づき,参加者の興味の幅が広かったことから,
全体セッション1回とグループセッション2回に分けてワークショップを行った。
いずれのセッションにおいても,活発な議論が行われた。

 全体セッション~ADMET 評価戦略について

ADMET評価戦略として、①ADMETデータ取得(取得タイミング、合成全化合物に対してデータ取得するのか)、②実施施設(社内実施、分社化、CRO委託)のPros/Cons、③データの信頼性保証(系構築時のバリデーションデータ取得の程度、実試験実施時の試験成立条件)、の3項目について議論した。

②の実施施設については,HT-ADMET部門の分社化のメリットとして,専門技術に特化することによる安定評価等が,デメリットとして,化合物構造等の情報が得られ難い,組織が小さくなることで人的リソースの余裕がなくなる等が挙げられた.
 

 グループセッション①試験系別

ADME(代謝,膜透過性,蛋白結合率等)系、DDI(薬物間相互作用)系、Tox系の3グループに分かれて,各試験の方法や結果解釈等についてディスカッションを行った。

終了後、各グループより議論内容について発表して頂き、他のグループの参加者とも情報を共有した。
 

 グループセッション①試験技術別

反応・前処理系(自動分注等)、分析系(LC/MS等)、IT系の3グループに分かれてディスカッションを行った。

終了後、各グループより議論内容について発表して頂き、他のグループの参加者とも情報を共有した。
 

以上,ADMET評価部門の在り方といった組織的な話題から,各試験項目の詳細な技術的話題まで,日頃,各機関で抱えている課題を適切に共有しながら,その解決に向けた活発な議論を行うことができ,有意義なワークショップとなった.

 

【Track 10】「Biophysical相互作用解析」ワークショップ 議事録

ファシリテータより、SPRとITC、そして他の物理化学解析法、それぞれについて議題を設定し意見交換を行うアジェンダを組んだ。各議題にて事前アンケートで回答いただいた参加者より代表して口頭にてご発表いただき、討論のきっかけをつくった。主な議題と討論の内容は以下の通り。

 【議題1】SPRアッセイのデザイン

SPRを活用したスクリーニングとKinetics解析において、それぞれのアッセイ系におけるノウハウ、注意点など、経験談を交えて意見交換を行った。両アッセイ系に共通することは、いかにして活性を保った状態で固定化できるかについて、固定化方法の選択やポジコンの利用などについて議論した。さらに低分子量化合物のスクリーニングにおいては、固定化量を上げて長時間安定に固定化するための工夫として、センサーチップの選択やHigh affinityタグによる固定化について意見交換がなされた。
 

 【議題2】SPRセンサーグラム評価、データ解析

センサーグラムの形状から、弱い結合か非特異結合かの見極め方について議論した。討論のポイントは「非特異的結合」の考え方にあることに行きついた。標的タンパク質に対して複数結合したり、高濃度領域にて急増する結合様式であったり、mM以上の非常に弱い結合親和性を示すものであったり、それぞれについて、非特異的な結合と呼ぶ場合がある。実験者によって非特異結合をどう定義するのかによってセンサーグラムの見方も変化するため、その立ち位置の重要性を議論した。また濃度依存的に結合レスポンスがどのように変化するか、についても非特異的結合を見極める重要な観点であることも議論された。
 

 【議題3】ITCの実例、質疑・討論

①ITCで得られる特徴的なパラメータΔHをどのようにヒットtoリード課程で活用するか、②化合物間でのΔHの比較のために精度の高い測定を行う上でどのような工夫を行うか、という点に焦点を当てて議論を進めた。①については、HTSヒットからの初期ヒットtoリード合成展開において、ΔHに注目した部分構造の探索から、顕著に発熱が見られる部分構造を見出すことで、結果的に大きい活性向上に繋がった事例を紹介した。関連した議論からは、結晶構造解析を基にしたデザインができている状況でも、実際に水素結合が理想的に形成されているかどうかはわからないので、実験的に結合様式の質の確認ができる点がITCの有用性として確認された。また、ITCに適さない溶解性の低い化合物への対処については、部分構造に分けることで溶解性を高めてITCで評価を可能にするなどの意見も挙がった。②については、装置のコンディションを良好に保つことが重要であり、そのためのメンテナンス方法や、装置のコンディションを確認する方法などについての議論を行った。
 

 【議題4】その他のBiophysical相互作用解析技術について

質量分析MS法を活用した低分子結合解析について議論が交わされた。複数の企業にて蛋白質を標的とした装置とノウハウ(プロテオーム解析)はそろっているものの、低分子相互作用に関してはあまり整備されておらず、参加者の中では限られていた。とくにMSの利点として正確な分子量が明らかとなるため、結合量論比、さらには構造情報についても議論が可能となるため、今後の重要な解析技術として注目したい。その他の物理化学解析装置についても、装置間の利点、欠点などについて意見交換を行った。
 

 【次回以降の課題】

・SPR, ITC以外の物理化学的解析技術についても情報交換したほうがよい。とくにMS測定おいては、その活用法が多岐にわたることもあり、別のワークショップとして取り扱うことも検討したほうがよい。
・チュートリアルとワークショップを両立、また基礎編と実践編に分けた情報交換の場を定期的に設けた方がよい。

 

【Track 11】HTSヒット選抜の新たな戦略 「まだTopXでヒット選抜?」

JT 医薬総合研究所  堀 浩一郎

今回のWSはHTSにおけるヒット選抜の方法論についての議論を深める目的で、表題の通りの会を企画しました。堀より「LEを考慮したヒット選抜の取り組み」、興和の西山氏より「ランダムスクリーニングにおける統計解析的手法導入の試み」について話題提供を行い、TopX方式のヒット選抜への問題の投げかけを行い、全体でのディスカッションに入りました。

ヒット選抜プロセスの進め方について各社で共通していたのは、早期の段階でMed. Chemistがプロジェクトの初期段階から参画するということが重要ということで、そのための組織論や人的配置や企業風土にまで議論が及びました。一方でBiologyはMed. Chemistに提示できるだけの確度の高い候補化合物をいかに選抜するかが重要で、そのためのヒット選抜方式や系の種類・数、プロジェクトの進め方などについて議論しました。その他にHTS用データベースや解析ツール、データベース活用についても少し議論したところで時間いっぱいとなり、技術ベースでのヒット選抜手法はあまり議論できなかったのが残念でした。

今回のWSでは、(当初は全く想定していなかった)Med. Chemistのかかわりについての議論が白熱し、ここでは書けないような話がたくさん出たのが楽しかったです。BiologyとしてどうやってChemistにSARを始めてもらうか、Chemistと協業するための取組みや戦略という話題についても議論しました。

今回の分科会は議論に参加できるメンバーの上限を36名に絞って、車座でディスカッションしました。実際、この人数が一つの車座で議論できる上限でこれ以上は増やせないという印象を持ちました。またアカデミアからの参加者についてMed. Chemistとの協業や創薬プロセスが異なることから議論に入りづらかったと思い、今後のWSの進め方で考慮すべき問題と認識しました。

 

【Track 12】スクリーニング戦略

今年も、ファシリテーターから事前アンケートの結果を交えながら、「最近の製薬企業を取り巻く話題」と「新薬創製の現状と課題」を紹介しつつ、取り上げたトピックスに対する戦略をグループで討議した。
WS参加者は5つのグループ(5~6名)に分かれて、自身が製薬企業の経営陣の立場で、自社のHTS創薬のボトルネック解消のためには、今後どのような戦略を選択すべきかを意見交換し、その結論をWS全体で発表した。
各トピックスに対する主な意見は以下の通り。

 【化合物ライブラリの拡大戦略 自社独自or 外部連携】

両戦略のハイブリッドあるいは外部連携を選択する意見があったが、各グループの結論までに至らなかった。自前拡大路線を補完するために、共同購入やライブラリ交換を積極的に進めたいという意見がある一方で、他社ライブラリの保管状況や純度等に対して不安視する声も聞かれた。ドラックライク化合物を揃えて、フォーカス・ライブラリを目的に応じてスクリーニングするといった「ライブラリサイズ」や「質」を重要視する声が多く聞かれた。海外事例の状況からは、化合物ライブラリはプレコンペティティブな環境にあり、解消すべきボトルネックの対象はすでに他に移っている。
 

 【HTSアプローチ戦略 ターゲットベースVS フェノティピック】

多くのグループで、実情はターゲットベースが主流であり、フェノティピックはまだ少ない。薬剤標的の枯渇化が懸念される中でフェノティピックへの期待は大きいが、解決すべき課題も多い。グローバル製薬企業もフェノティピック・ドラッグ・ディスカバリ(PDD)へのシフトが顕著であり、このアプローチを強化するためには、“in vitro疾患モデルの確立”、“複数評価系の並行実施”、“アノテートライブラリを活用してターゲットのあたりを付ける”等の工夫が必須と考えている。
 

 【HTSの将来】 

HTSの将来に関しては、“創薬アプローチとしてのニーズは残るものの、現状維持では先が見えないと感じている”という意見が多かった。海外企業もPDDへの移行に加え、アライアンスを強化しながら、得意分野への資源の集中やHTSの一極化(社内および同業間)が進むと予測している。
 

【HTS戦略】

HTS戦略の方向性について、4つの戦略分類に関して議論し、グループ方針を決定してもらった。
「経験重視vs新規性重視」のポートフォリオ視点を縦軸に、勝負は「効率でvs目利きで」の視点を横軸にとり、4つの戦略に分類している。

(A)選び抜いたテーマに腰を据えて取り組むプロセス、 (B)自社を頭脳的機能に特化させ、アジアの国々のCROを駆使するプロセス、(C)新規性の高い技術にじっくり自社でも取り組むが、同時にアライアンスをリスクヘッジとして標準的に活用、(D)ざっくりと絞り込んだテーマに、高回転で一挙に進める

ほぼ全グループでCを選択したが、1グループのみ、臨床MDの目を入れて薬剤標的選択し、成功確率の高いテーマによるAを選んだ。現実的には、いずれかに特化するのではなく、テーマの標的や疾患領域に応じて、選択する事であろう。

 

【Track 13】産官学連携

ファシリテータより、国による欧米の創薬支援の現状と日本の取り組みを解説した。その中では、日本の現状として、DISCに関する質疑応答もあった。
事前に取ったアンケートでは、初期創薬において、プレコンペティティブな部分はあると考えている人は、100%であった。将来的には化合物ライブラリー、HTS系構築、HTS実施、新規技術の共同開発・共有化など、プレコンペティティブ(共同あるいはパブリックなインフラ)にできるのではないかという回答が得られた。
アンケート結果をもとに、「化合物管理の一元化」、[スクリーニングに関する連携]の2グループにわかれ、創薬を「産」「官」「学」で協力して担う時、創薬環境におけるオープンにできる情報とは何か、クローズドにすべき情報とは何か、それぞれでオープンにできることクローズドにすべきことを整理し、あるべき姿を話し合い、各グループの討議内容のまとめを代表者が発表する形式でおこなった。
「化合物管理の一元化」に関しては、より、具体的なアイディアがだされた。管理負担も大きいので、まずは共同管理からはじまり、次のステップとして共有化をするのがよいのではないかという意見でまとまった。「スクリーニングに関する連携」に関しては、各社固有の得意技術はあるものの技術の共有はできるのではないかという意見がでた。「学」には、target validationを期待し、「産」は開発に力を発揮するのが良いのではないかというのは共通認識ではあるが、それぞれがどこに競争優位性を見出すかが、いまだ、うまく住み分けができていない状況であり、官に橋渡しの役割を期待する意見も出た。

 

【Track 14】天然物創薬のボトルネックを考える まとめ

本ワークショップの参加者は総勢25名であり、その内訳は企業(製薬、農薬、食品など)、アカデミア(学生を含む)、国、県、ベンダーと多彩だった。

まずファシリテーターが、本ワークショップの説明に続けて、「大村特別栄誉教授 ノーベル賞受賞解説(裏話込み)」と題し、抗生物質の発見としてはペニシリン、ストレプトマイシン以来、60年ぶりのノーベル賞受賞となったイベルメクチンについてその背景や経緯について解説した。続けて行われたテーブルディスカッションでは、天然物研究を取り巻く環境が厳しさを増している現実に目を向けた。「天然物創薬」と一言で言っても、その専門分野は多岐に渡る。天然物創薬の課題・ボトルネックはどこにあるかというアンケートでの問いに対して「素材関連(分離培養など)」、「ライブラリー」、「アッセイ」、「精製・構造決定」、「構造最適化」、「産官学連携」と、回答が見事に分散した。そのためテーブルディスカッションでは、特にテーマを限定せず、大村特別栄誉教授の成功事例に続くために、参加者がそれぞれの立場で天然物創薬の抱えるボトルネックを抽出・特定し、その解消に向けた前向きな議論を展開した。

 【テーブルディスカッションについて】

本ワークショップ参加者が4つのテーブルに分かれ全2回のテーブルディスカッションを行った。1回目では、各テーブルに専門の近い方を分かる範囲でグルーピングし、参加者の簡単な自己紹介・担当業務紹介に続けて各人の担当領域の中で感じる課題等を共有・ディスカッションし、最後にその議論内容を全体で共有した。一方で2回目は、専門領域が多様になるようにメンバーを入れ換え、異分野交流を通じて天然物創薬のボトルネックを抽出・議論し、1回目と同様に全体で議論内容を共有した。

テーブルディスカッションでは様々な視点からボトルネックが抽出された。中でも、「ヒット後の創薬展開に課題があること」、「大学のシーズと企業ニーズとのミスマッチ」、など組織内・組織外とどのように連携していくかという論点が目立ち、一大学、一企業だけでは解決が難しい場合には、産産、産学連携を通じた展開を支援する国の施策が必要との意見があった。
本ワークショップを通じて築いた関係性が、気軽な情報交換から密な連携につながる出発点になれば幸いである。